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3歳くらいのおんなのこが、公園で目を輝かせながらブランコに乗っている。
きゃあきゃあ笑っていて、足をじたばたさせながら、おかあさんに背中をおしてもらっていた。
気をつけて! と言いながら、おかあさんもにこにこと笑みを浮かべて背中を押していた。

小学生くらいのおんなのこが、ランドセルを背負って走っている。
じぶんの背より大きいランドセルを背負って、意気揚々と歩いていた。
買ってもらったばかりなのか、ランドセルはキラキラと輝いてみえた。

中学生くらいのおんなのこが、友だちとおそろいの制服を着て歩いている。
数学よく分かんな〜い! って大きな声で笑っていた。
ケラケラと友だちと顔を見合わせて、時折、お互いちょっかいをかけながら歩いていた。

高校生くらいの女性が、恋人と手をつないでベンチに座っている。
距離が近づいて耳打ちをしたあと、目を合わせて思いっきりそらした。
顔は赤らんでいて、お互いそっぽを向いていたが、手はつないだままだった。

社会人の私がベッドの上で目を覚ました。
時計の針は6時辺りを指していて、いつも通りの憂鬱な朝だった。
いや、いつも通りではないのかもしれない。
なんとなく、いつもより幸福感と劣等感があった。
夢を見ていたのだろう。なにかに憧れていた夢を。

もう大人になってしまった。もう夢を見ていられないことに気づいてしまった。
けれど、時々見る幸福感と劣等感のあるあの夢は、 わたし という少女の夢だったのかもしれない。

4/16/2024, 11:26:23 AM