君の匂いも、声も、姿も、カタチも。どこかもう薄れていて曖昧になっていた。
15年ぶりに戻ってきたこの街は、何もかも変わっていて、どこか見知らぬテーマパークにでも迷い込んだのかと錯覚しそうになる。
『ねえ、歩くの速い』
いつしか彼女がそう文句を言った。
僕はきちんと歩幅を合わせていたつもりだったのに。
『ごめん』
更にゆっくりと歩く僕は、自分がカタツムリになった想像をしていた。いつも怒られるたびに、何か考えてしまうのが癖だった。
15年。長いような短いような月日。
きっとたぶん、君にとっては早く、短いものなのだろう。
この街は何もかも変わっている。店も、音も、雰囲気も。
並んで座ったベンチは、塗装が剥がれ、昔の名残りを残したまま廃れている。
僕はそこに腰掛けてみた。
15年前のように。ただ、ゆっくりと座って、街並みを眺める。
『あれ、君同じ高校でしょ?』
話しかけたのは君からだったよね。その日は風が強くて、目も開けられないほどだった。でもなぜか、君の声ははっきりと聞こえたっけ。
でも今は、風の声しか聞こえない。
「君…………」
風に混じる、高い声。
耳を疑う。
そんなはずないのに。
いるわけないのに。
でも。
もしかしたら。
「…………早かったね」
次は、言われなくても歩幅を合わせるよ。
1/28/2026, 1:55:48 PM