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「なぁ、ユートピアって、どんな世界だと思う?」

ふと、お兄ちゃんが小説を書く手を止め、私にそう聞いた。

「うーん……私は、大切な人と、傍にいるだけでいいから、分からない」

ユートピア。またの名を理想郷。心も体も満たされるような世界、というような意味だったはず。

憧れの小説家にはなれず、床も壁もボロボロで、布団も糸がほつれていて、そんな家に住んでいる私は満たされていないように見えるかもしれない。

でも、私はお兄ちゃんのそばにいるだけで、心も体も満たされていた。

「お前らしい返答だな。参考にするよ」

そう言ったあと、お兄ちゃんは激しく咳をして、小説を書き始めた。

それから何年か経った後、お兄ちゃんは結核で死んでしまった。

私がすごしていたユートピアは、もう無い。

10/31/2023, 10:51:25 AM