「困りましたわ。ええ、困りました」
「どうしたのです、お嬢さん」
海岸沿いに座り込んで嘆いていると、空色の服を着た青年が声をかけてきた。どこかの制服なのか、上下空色、帽子も空色。
「友人に手紙を届けたいのだけど、私はこれ以上動けないの。とても困っているわ」
「手紙ですか」
「ええ、そう」
青年は、私が持っている手紙をジッと見たあと、私の視線に合わせてしゃがみこんだ。
「僕が届けましょう」
「貴方が? なぜ?」
「僕は郵便屋です。それに、貴方のご友人が住む場所まで、飛んでいく羽根もある」
彼の背中から、真っ白い翼が広げられる。触れたら消えてしまいそうなほど、柔らかそうな翼だ。
「あら、そうなの。奇遇だわ」
「ええ、本当に。なので、手紙をお預かりします」
「お願いね。友人は空の上の、鈴白というお店にいるわ」
彼はおまかせを、とはにかんで早速空に向かって飛び立った。白い羽根が傍に落ちてくる。羽根を手に取り、太陽に透かしてみる。やはり、消えてしまいそうなほど美しい。
「羨ましい……私にも、羽根があったなら」
海の底に住む私と、空の上に住む友人。私たちが会えるのはこの海岸でだけ。それも月に一度か二度。
それ以外は手紙でやり取りをしているけれど、今のところ自分が海岸のどこかに手紙を隠して、相手が隠された手紙を見つけて持って帰るしか方法がない。すぐに届けたい時は、どうしても焦れったいのだ。
だから、私は悔しい。羽根があったなら、私はもっと自由なのに。
「……いけないわ。海が荒れる前に早く帰りましょう」
風が徐々に強くなる。
私は無事手紙が届くのを祈りながら、海の底へと帰った。
1/20/2024, 3:31:54 PM