田中 うろこ

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現実とは酷く苛烈であり、より辛く、より滑稽な事実を作り出すらしい。花吐き病とは耽美の代名詞であり、チビでデブの俺とは真逆の言葉である。しかし、俺は今タクシーの中で小さな赤い花弁を吐き出した。花吐き病に罹患した。

運転手さんに乗り物酔い用の袋を貰って事なきを得たが、袋の中には色鮮やかな花弁がちらほらへばりついている。吐瀉物のツンとくる匂いではなく、花の香りがしてきて、余計にせりあがってくる。気持ちが悪い。俺の気持ちも込みで全部。

「真田さん、好きな人おるんでしょ」

紙袋を握りしめてタクシーを出る。家の前で涙を堪えて立ちすくむ。想い人には想い人が居る。そんな当たり前のことが辛い。ましてや自分はチビのデブ、上手くいくはずもない。二人の夢も叶えられていないのに、じわじわ寿命が縮む怖さに手先が悴んできた。溢れた涙がメガネのレンズに溜まる。何も見えない。未来も何も。そうしてうずくまって泣いていると、頭がクラクラしてくる。きっと絶望的なぶさいくだ。やってられない。

目が覚めると白い天井がそこにあった。点滴の匂いとサラサラとしたシーツ。知らない所だった。
「おう、やっと目ぇ覚めたか」
「さなださん?」
身じろぐと手に温もりを感じる。真田さんの手は骨ばって綺麗な手。指も長くて美しい。
「もういい?汗でしっとりしてんねんけど」
「いやいいっすよ、頼んでへんし」
「あそう、でもまあ生きててよかったわ」

『生きててよかった』そうやっていってもらえるぁけで御の字なのだ。

瞬間肺の奥が苦しくなる、どんどん異物がせりあがってくるのが分かる。そういえば俺花吐き病なんやった。首を抑えて悶えても、もうすぐそこまで来ている。

「おいお前大丈夫か?!」
「お"え"っ」

真っ赤な一輪のバラが丸々出てくるなんて。

「お前、花吐き病やったんか……なんかお前、一生治らんかもな、えっと……どんまい」

でもそんな所が好き、好きになってしまった俺の負け。

2/24/2025, 4:42:36 PM