作品5 子猫
小さい頃、猫を飼いたかった。誕生日やクリスマス、ほしいものを聞かれるたびに、何度も何度も、親にねだった。結局、しつこくしすぎて父に怒られ、飼うことはできなかった。
母は、猫を飼うことに賛成していたから、私と同じくらい傷ついていて、ある年の誕生日に、鈴がついた猫のぬいぐるみをくれた。
ぬいぐるみなんかじゃなくて、ちゃんと生きてる猫が良かった。でもそんなこと、あの空気の中では言えず、不貞腐れた感謝の言葉しか出てこなかった。それ以来、あまり猫の話題には触れていない。
それが、大体15年くらい前の出来事。
そしてそのぬいぐるみが、つい先程消えた。
いつも枕の横に、飾っていたはずだ。動かしてなんかしていない。朝、仕事に行く前は、確かに置いてあった。
一体どこに行った?
一人暮らしだから誰かが触ったはずはない。親には具体的な住所を教えてないから、この家に来れないはず。空き巣か?いや、それなら金目のものが、盗まれてるはずだ。
だめだお手上げだ。別に、特段大切にしていたわけではないし、あんなボロボロなもの、あってもなくても変わらない。
自分でも驚くほど、私は、すっかりこのことを忘れていた。
なぜこんなところにこんなのがあるんだ?
仕事が長引き、帰るのがいつもより遅くになってしまった今日。麦酒でも飲みたいなー、なんて独り言をつぶやいていたら、部屋の前見覚えのない段ボール箱がおいてあった。箱にはやけに達筆な文字で、拾ってくださいと書いてある。
これは、よく小説とかで見かけるあれじゃないか。そして、ふと、ぬいぐるみのことを思い出す。
この流れで行くと、箱の中身は子猫で、そしてあの日無くしたぬいぐるみにそっくり!なパターンじゃないか。
非日常的な出来事に、少し頭がおかしくなって、思考がぼやぼやしていた。ちょうどここはペット可だから、せっかくだし飼ってやろう。
ゆるくそんなことを思いながらダンボールを開けてみると、やはり子猫がいた。なんて真っ黒で可愛いのだろう。あの三毛猫のぬいぐるみとは、全く似ても似つかない。はぁーと控えめにため息をつく。少し残念だ。
あれから半年程たった。子猫は少し大きくなり、今は隣で元気にご飯を食べている。人懐っこくて、最近は癒やしになってきた。やはり猫はいいな。父も飼ってみたらいいのに。
猫を撫でながら別のことを考える。
あーあ。やっぱり、あのぬいぐるみは見つからないなー。この子と並べたら、絶対可愛いのに。この際だし買ってしまうか。
いい感じのがあるかなと、スマホをいじりだすと、ちょうど子猫が餌を食べ終えた。そのまま布団に向かう。よく食べてよく寝るなやっぱり可愛い。
すかさず写真を撮り、初めて撮ったときのと比べては、可愛いーとうめく。
何分経ったのだろう。子猫がどこかへ消えた。けれど声はする。布団にもぐっているのかな思い、布団をよかしてみるがいない。
するとベッドの下から出てきた。ホコリまみれで可哀想に。急いでブラシできれいにしてやる。
「ごめんねー。ここ掃除するの、うっかり忘れちゃうんだ。あれ、最後にやったのいつだっけ?」
むむぅと考え思い出す。この子が来るずっと前、つまり半年以上前じゃないか。
それはやばいと掃除をすると、何か大きなものが引っかかった感じがした。床に顔を近づけ見て、あっ!と叫ぶ。
少しホコリをかぶった、あのぬいぐるみがあった。ついでに、見たことのない物体が、ベッドで隠れて見えないコンセントに繋がっているのも。
⸺⸺⸺
猫派もどきの犬派と見せかけてどっちも好きなタイプです。
わざわざ主人公の部屋の前に捨ててあったのと、誰も触ってないのに、ぬいぐるみがベッドの下にあったこと。ちゃんと意図的に書いてます。
彼女は早いうちに引っ越したほうがいいですね。
彼女が猫好きだと知ってるのは親くらいのはずなのに。
11/15/2024, 11:29:06 AM