みかすず

Open App

お題:Kiss

 月の出ている夜は、必ずカーテンを閉めることにしている。
 そうしなければ何もかも見透かされてしまいそうな気がするから。

 すべてが寝静まった闇の中で、あたしはようやく息を吹き返す。
 無造作に放ってあった抱き枕を引き寄せ、腕の中にそっと包み込む。慈しむように、愛おしむように、なめらかな感触のするそれを手のひらで愛撫する。つぶれてしまいそうなほど強く抱きしめたあとは、狂ったようにキスの雨を降らす。それが仕上げ。体勢を変えるたびにベッドが軋んで、あたしの身体の奥に眠る熱を呼び覚ます。腕の中にあるのが生身の人間か、ただの繊維の塊かなんて、どうだってよかった。目も耳も閉ざしてあたしの世界に入り込めば、そんな違いは些細なこと。

 そうしているうちに朝日が昇る。腕の中の繊維の塊を、ベッドの隅に無造作に追いやる。カーテンを開け、光を流しこむ。あたしの身体は急速に冷えていき、そしてかりそめの死を迎える。

2/4/2023, 8:46:20 PM