「演奏者くん、エイプリルフールって知ってるかい?」
彼女に急に現れて、演奏していた僕にむかってそう聞いた。
うららかな春の日差しがさんさんと照っていると言えば聞こえはいいけど、実際はいつも昼、というか明るいこの『ユートピア』にとって日付も時間も季節も住人にとってはないものなのだ。
だがしかし『権力者』である彼女は日付や季節といったものを感知ができるようで。僕のことを嫌ってるきみがわざわざ話しかけてきたのも、きっとその辺の話だろう。
「⋯⋯⋯⋯知らない」
「だよね? いっくらボクのことを下に見たい演奏者くんも、流石に知らないよね??」
僕の予想は当たったらしく、彼女はやたら上機嫌に言った。言い方が憎たらしいような、そんな些細なことで威張ってて微笑ましいようなそんな感情を覚える。
「で、なんなんだい、それは」
「ん? ああ、えっとね、まず君には分かりがたいかもしれないけど、今日は四月一日なんだよ」
「⋯⋯なるほど」
「それで四月一日というのは嘘をついてもいい日って決めたんだ」
嘘をついてもいい日、ね?
「そうだね」
僕は極めて冷静にそう言った。
僕の思った通り、彼女は少しギョッとしたあと、顔をしかめた。
「もしかして、知ってて嘘ついたな!?」
「いや、騙せるかと思ってね。ついやってみただけで本当に僕は知らなかったよ」
そう言うと、彼女はあからさまに機嫌が悪くなった。
「あっそう!! そういうことすぐするよね、演奏者くんは!! そういうとこ大嫌い!!」
「それは今言ったら逆の意味になるんじゃないかい」
そう言うと彼女は沈黙した。顔をぐしゃぐしゃにして、怒っていた。それでも逆の意味をすぐ返さないのは、きっと嘘でも言うことすら躊躇うからだろう。
「僕も嫌いだよ、きみのこと」
そんな言葉で追い打ちをかければ、靴で軽く地面を蹴って舌打ちしながら彼女は去っていた。
皮肉ったわけではなく、本当に彼女のことを嫌いではないのは、彼女には伝わらなかったらしい。
4/1/2024, 5:39:40 PM