ミミッキュ

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"岐路"

 目が覚めて病室に二人になった瞬間、『なんで俺なんかの命を救った』という言葉が口をついて出そうになったが、ぐっと堪えた。
 自分を救おうと最高難易度の手術を施した医者にこんな言葉を送るなど、できるわけが無い。
 沈黙が降りる。
 その沈黙を切るように口を開いた。
 とんでもない命令を下され、どうするかギリギリまで悩んだそう。
 そんな命令を実行してしまえば良くて医療事故、最悪殺人。普通ならここで命令を放棄する。だが恋人のデータを人質に取られていて、それもあってとことん悩んだと続けた。
 そんなの、迷わず俺に手を下せば良かっただろうに。そう言うと、言うと思ったと少し怒っているような口調で言われた。
 約束を思い出した。自身の矜恃も思い出した。だから約束と矜恃を守る為に俺を救う方を選んだと、とても晴れやかな顔で続けた。
 究極の選択を迫られた時、俺は選べる自信が無い。俺にはできない選択を最終的に自分の心で選んだ、目の前に立つ年下の天才外科医の事を『強いな』と感心して、思わず口角が上がった。
 また口を開いて今度は何を言うのか黙って待っていたら、衝撃の言葉が出た。開いた口が塞がらないとはこの事かと体感した。
 この話はまた今度。

6/8/2024, 1:41:12 PM