「愛があれば何でもできる?」
画家は笑った。
「まぁ、確かに決して間違いではないよ。私も彼女のお陰で生きていけたからね。彼女は私の片割れと言っても良かった。けど、愛って本当に万能かな?」
ゴチャゴチャの歪な景色が描かれたキャンバスを背にして画家は言った。
「愛は生きるに連れて見返りが必要になる。見返りのために抱くようになる。生きるためには金がいるし、権力や肩書も必要になる。愛だけでは食えないとわかったとき、愛がある上でそれをどう利用するか、何と引き換えにするか、愛を得るために自分は何を差し出せるか、いくら本当に大事と言われているものであっても、実生活に影響を及ぼしている殆どのものは消耗品だ。目に見えない愛より、目に見える有限のもののほうが、ずっと生きる上では役に立つ。」
画家は鋭い光を瞳に湛えて語る。
「そもそも、愛なんてもの自体、人間が勝手に作った都合のいい願望でしかないんだよ。」
描きかけのキャンバスには、画家の恋人が神格化された姿で裸体を晒していた。
5/16/2023, 11:52:19 AM