安達 リョウ

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梅雨(偉大なる海)


「まさかこんなに降るとはなあ」

旅館の窓際で頬杖をついて、呆けたまま動かないでいる彼女を見兼ねて声をかける。
―――ニュースでは華々しい梅雨明け宣言と共に、晴天の下でアイスを頬張る子供の映像が映し出されていた。

「一か八かで宿取ってみたけど、見事にハズレたな」
「………仕方ないわよ。操れないもの、天気までは」

諦めるような言葉を口にしながら、彼女はそれでも天を仰ぎ見る。
雲は厚く、降りしきる雨は到底上がるとは思えなかった。

「お互い仕事でこの日しか取れなかったもんなー。梅雨明け遅かったから、大丈夫だろうって楽観してたのが仇になったな。予報には勝てないねえ」
「………。慰める気ある?」
不機嫌な声色に、彼はしまったと舌を出す。

「あーあ、久しぶりの海だから気合い入れて準備してきたのに」
「明日、も微妙な天気らしいけどな」
「ビキニの新調も水の泡ね」

………今何と?

「ビキニ?」
「そう、ビキニ。去年ワンピースだったから、ちょっと奮発しちゃった」

……………。
それは。マズい。

「明日、行こう」
「え?」
「宿出る前の午前中、海に!」
「え、でも天気」

「晴れる! きっと! 気合で祈るから!」
「………」

―――男ってほんと根っから単純な生き物で羨ましいわ。

途端に浮つく彼を尻目に、彼女はそれでも晴れるといいな、と。
未だ梅雨空を頑固に貫く鉛色の雲に、方向性の違う彼とわたしの願いが届きますように、と―――彼女は釈然としないながらも、その手を合わせた。


END.

6/2/2024, 7:11:42 AM