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decn夢小説




 ふと、坂口の視線が揺れる……、その先に鏡がよくあることに気づいたのはいつだったかは、コナンは覚えていない。
 鏡。姿見のような大きなものもあれば、鏡というよりは単純に風景が映りこんだだけの板の場合もあった。どちらにしても手持ちぶさたの坂口がふとなにかに気づいたように視線を動かしてそれをみる。真っ正面に、横目に、じっと、ちらりと。濃い色眼鏡越しに涼しげな夜桜じみた色彩の瞳を動かして、自分をみている。ふとした時に、その場から坂口がひとりだけぽつんと抜け落ちても誰も気づかないような、ひっそりとした間に。

「坂口さん」「先輩」「おい、坂口」「安吾さん」……、と。

 誰かが声をかければ、彼はその瞬間には視線をこちらに戻して、何事もなさげに口を開く。小さな小さな隙間をぬうようにそらして見つめていた自分自身などお構いなしに、捨て置くように。どうでもいいもののように。
 それが気になって仕方なかった。
 彼には何が見えているのか、しりたくなったのだ。
 その場の流れに戻っていく坂口をちらりとみてから、彼が視線をやっていた鏡をみたことがある。なんの変哲もない鏡は、これまたなんの変哲もなくポケットに手を突っ込んだ色眼鏡の男を映していた。
 いつもとなんら変わらない、江戸川コナンがいる坂口安吾が、そこにいるだけだった。

8/18/2023, 10:24:22 AM