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11/9「脳裏」

 目を閉じると、蘇る。いつ何時、いかなる場所にいても。
 そこは銃声が絶えず鳴り響き、土埃と硝煙の匂いの立ち込める乾いた大地。銃器を構える俺たちは兵士だった。
「撃て!」
 一斉掃射の命令が飛ぶ。生きるか、死ぬか。殺すか、殺されるか。皆がそんな世界で生きていた。
「パパ!」
 目を開ける。
 膝に小さな娘が飛びついてくる。その後を、きゃっきゃっと声を上げながら息子が追ってくる。
 脳裏に焼き付く戦場の光景を、この優しい時間が塗り替えてくれるのはいつだろうか。

(所要時間:7分)



11/8「意味がないこと」

「風上先輩、付き合ってください!」
 まただ。今年に入って何人目かとクラスメイトに問われたがわからない。数えていない。
「悪いけど、興味がないから」
 女子というのはなぜこんな意味のないことをするのだろう。情報網もないわけではなかろうに、何人も繰り返してくる。
 返事はした。もういいだろう。その女子に背中を向けて立ち去った。

「どうだった?」
「いや〜、素敵! あの蔑んだ目! 最高のご褒美!」
「だよねぇ〜、いいなぁ〜!」
「ミユキはこないだもらったでしょ」
「何度でももらいたいじゃん、ご褒美は!」
「あと告白してないの誰? 録音頼めそうな人で」
「えっ録音してるの? 私もほしい〜!」
「風上先輩需要ありすぎ…!」
 こちら側には大いに意味があるらしい。

(所要時間:8分)

11/10/2023, 4:45:54 AM