ずっとこのままでいいよ。そう言うと彼は首を振った。「そういうわけにもいかん。お前の才能を活かすには人手がいるのだ」彼は次から次へと人を雇った。二人きりだった会社はみるみるうちに大きくなった。彼の選ぶ人はみんな僕との相性が良いようで、どちらかといえば人嫌いな僕でもうまくやっていけた。他人の中では息が詰まる僕でも普通にやっていけるのだ。こんなこと、今まであなた以外ではありえなかったのに。日々はにぎやかで毎日が楽しかった。あなたがそばにいなくても、さみしいと感じなくなった。そのことに気がついてふいに怖くなった。いつかあなたがいなくなったらどうしよう。もうお前は大丈夫だと一人笑って、僕の前からいなくなったらどうしよう。そして、あなたがいなくなったことにも気が付かず涙も流せない僕だったらどうしよう。僕は騒がしい同僚たちの輪から一人抜けて、社長室へ走り出した。ノックもせずに戸をあけると、彼が大福を伴に茶をすすっているところだった。僕は深い溜め息をついた。「一体どうしたのだ。そんなに慌てて」「なんでもない。ねえ、社長。一人だけで大福なんてずるいよ」もう少しだけ。僕はもう少しだけ、あなたとこうしていたい。
1/12/2023, 1:42:20 PM