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やるせない気持ちは、いつも悲しみをともなっている。
あの子の苦しみは私の苦しみではないのに。
同情はいらない。
と、あの子はいう。
でも、辛そうですよ。と私は考える。
天上から、降りてくる蜘蛛の糸みたいに、救われたい人々がいて、グレートヒェンの祈りは遠く、すでにここにはない。
振り返ると、いなくなってしまった、人々の影が見える。
彼らは彼らなりに頑張っているのだから、あなたは自分のことをしなさいね、と母の声が言う。
無数の光の中で、出会っていく人達は、皆覗き絵の、押絵の如くある。
人は紡ぐ。ここにいるのだから、頑張って生きなさいと。
聞こえてくる、人々の声は、無数に反響して、私を形作っている。
永遠に語り繋がれていく物語。
その産声に耳を傾けながら。

8/24/2023, 10:46:47 AM