「武《たけし》君。最近君の目を見つめようとすると、露骨に目をそらすよね。なんで?」
帰り道、隣で歩く幼馴染に私は問いただす。
さりげなく目を見ようとするが、目をそらされる。
「それは……見つめらるのが苦手だから……かな」
「ダウト。何年幼馴染をやっていると思うの」
「うぐ」
図星を突かれた武君は、嫌そうに表情をゆがめる。
分かりやすい。
「そういう咲夜こそ、なんで俺の目を見ようとするのさ」
これ以上、追及されまいとする意図が見え見えの質問をしてくる。
だけど、この問いに対する答えは、私にとって恥ずかしいものではない。
「言ってなかったっけ?好きなの、あなたのその黒い目。綺麗だし」
「え、好きって……」
『好き』という言葉に過剰反応する武君。
思春期か。
「それに私の目、少し茶色が入ってるでしょ。ちょっとコンプレックスでね」
「そんなことないぞ。咲夜の目も、その、綺麗だ」
「ありがとう。という訳で、武君の目を見せてもらうね?
その代わり、私の目は好きなだけ見ていいよ」
「は、バカか。やるわけないじゃん」
くそ、引っ掛からなかったか……
もう少しだったのに……
それにしても、嫌がり方が普通ではない。
まさか――
私の頭に閃きが走る。
「ははーん、分かったぞ」
私の言葉に武君の体がビクッと震える。
「さては目を見られると、頭の中読まれると思ってるんだね。 安心していいよ、私にそんな芸当は出来ん」
「はあ、ちげーし」
がっかりしたような、安心したような複雑な反応を見せる武君。
反応を見るに、私の推測は間違っているらしい。
だ・け・ど。
「隙あり!」
「あっ」
私は素早く武君の正面に回って彼の顔をガシッと掴み、息がかかるほどの距離まで自分の顔に近づける。
「コレで目をそらすことは出来まい」
武君が何やら言っているが無視だ無視。
さて武くんの目をじっくりと堪能することにしよう。
と思ったのだが、意地でも目を合わせたくないのか、いきなり目をつむった。
「武君、そんなに嫌?」
「それは……」
「嫌だって言うなら、二度と言わない」
それを聞いた武君はビクッと大きく体を震わせた。
私も、武君がどうしても嫌だと言うのなら諦める。
私も嫌われてまでやろうとは思ってない。
拒否されるだろうなという予想とは裏腹に、武君はゆっくりと目を開けた。
OKてことね。
じゃあ、存分に見させてもらおう。
ふむふむ。
相変わらず綺麗な黒い目である。
心が洗われるようだ。
それにしてもこの嫌がりっぷり、もしかしたら武君の目を見る機会はもう無いかもしれない。
いったいいかなる理由なのだろうか。
これは理由を知って解決しておくべき問題だと、私は考える。
武君には黙ってるけど、実は他人の目を見ると人の心が読める。
さっき、心が読めないって言ったな?
あれは嘘だ。
まあ、ここまで近づかなければ読めないし、簡単な感情しか分からないけどね。
では早速、心を読んでみよう。
さて一体何を考えて……
と武君の目をじーと見つめてみる。
すると瞳に浮かび上がるのは……
ハート?
そしてハートの中に私の姿が見える。
何これ?
一瞬ぽかんとするが、すぐさまその意味を理解して、武君の顔から突き飛ばすように離れる。
武君は驚いたようで、目をぱちくりさせていた。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
武君の心配そうに声をかけるも、ぶっきらぼうに答えるしかなかった。
私は衝撃の事実に頭がくらくらしていた。
『武君が私の事が好き』
ということは……
ということは……
つまり、武君と両想いって事!?
なんてことだ。
勝手に私の片思いだと思って、ギリギリ何でもないフリが出来たのに……
向こうも私の事が好きだとか、そんなの知っちゃったら、もう恥ずかしくて目どころか、顔すら見れないじゃんか。
そこから家に帰るまでの記憶が全くなかった。
のだが、家に帰って冷静になったら、『付き合えば毎日好きな時に、彼の目を見ることが出来るんじゃね』ということに気づいた。
よし、明日会ったらいっちょ告白するか――
◆
そうしてまた一組のカップルが生まれた
そのカップルは、時間さえあればいつもお互いを見つめ合い、学校で一番有名なバカップルになったのであった。
めでたしめでたし
4/7/2024, 11:31:57 AM