G14

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「武《たけし》君。最近君の目を見つめようとすると、露骨に目をそらすよね。なんで?」
 帰り道、隣で歩く幼馴染に私は問いただす。
 さりげなく目を見ようとするが、目をそらされる。
「それは……見つめらるのが苦手だから……かな」
「ダウト。何年幼馴染をやっていると思うの」
「うぐ」
 図星を突かれた武君は、嫌そうに表情をゆがめる。
 分かりやすい。

「そういう咲夜こそ、なんで俺の目を見ようとするのさ」
 これ以上、追及されまいとする意図が見え見えの質問をしてくる。
 だけど、この問いに対する答えは、私にとって恥ずかしいものではない。
「言ってなかったっけ?好きなの、あなたのその黒い目。綺麗だし」
「え、好きって……」
 『好き』という言葉に過剰反応する武君。
 思春期か。

「それに私の目、少し茶色が入ってるでしょ。ちょっとコンプレックスでね」
「そんなことないぞ。咲夜の目も、その、綺麗だ」
「ありがとう。という訳で、武君の目を見せてもらうね?
 その代わり、私の目は好きなだけ見ていいよ」
「は、バカか。やるわけないじゃん」
 くそ、引っ掛からなかったか……
 もう少しだったのに……
 それにしても、嫌がり方が普通ではない。
 まさか――
 私の頭に閃きが走る。

「ははーん、分かったぞ」
 私の言葉に武君の体がビクッと震える。
「さては目を見られると、頭の中読まれると思ってるんだね。 安心していいよ、私にそんな芸当は出来ん」
「はあ、ちげーし」
 がっかりしたような、安心したような複雑な反応を見せる武君。
 反応を見るに、私の推測は間違っているらしい。
 だ・け・ど。

「隙あり!」
「あっ」
 私は素早く武君の正面に回って彼の顔をガシッと掴み、息がかかるほどの距離まで自分の顔に近づける。
「コレで目をそらすことは出来まい」
 武君が何やら言っているが無視だ無視。
 さて武くんの目をじっくりと堪能することにしよう。

 と思ったのだが、意地でも目を合わせたくないのか、いきなり目をつむった。
「武君、そんなに嫌?」
「それは……」
「嫌だって言うなら、二度と言わない」
 それを聞いた武君はビクッと大きく体を震わせた。
 私も、武君がどうしても嫌だと言うのなら諦める。
 私も嫌われてまでやろうとは思ってない。
 拒否されるだろうなという予想とは裏腹に、武君はゆっくりと目を開けた。
 OKてことね。
 じゃあ、存分に見させてもらおう。

 ふむふむ。
 相変わらず綺麗な黒い目である。
 心が洗われるようだ。
 それにしてもこの嫌がりっぷり、もしかしたら武君の目を見る機会はもう無いかもしれない。
 いったいいかなる理由なのだろうか。
 これは理由を知って解決しておくべき問題だと、私は考える。

 武君には黙ってるけど、実は他人の目を見ると人の心が読める。
 さっき、心が読めないって言ったな?
 あれは嘘だ。
 まあ、ここまで近づかなければ読めないし、簡単な感情しか分からないけどね。

 では早速、心を読んでみよう。
 さて一体何を考えて……
 と武君の目をじーと見つめてみる。
 すると瞳に浮かび上がるのは……

 ハート?
 そしてハートの中に私の姿が見える。
 何これ?

 一瞬ぽかんとするが、すぐさまその意味を理解して、武君の顔から突き飛ばすように離れる。
 武君は驚いたようで、目をぱちくりさせていた。

「どうしたの?」
「……なんでもない」
 武君の心配そうに声をかけるも、ぶっきらぼうに答えるしかなかった。
 私は衝撃の事実に頭がくらくらしていた。
『武君が私の事が好き』

 ということは……
 ということは……

 つまり、武君と両想いって事!?

 なんてことだ。
 勝手に私の片思いだと思って、ギリギリ何でもないフリが出来たのに……
 向こうも私の事が好きだとか、そんなの知っちゃったら、もう恥ずかしくて目どころか、顔すら見れないじゃんか。

 そこから家に帰るまでの記憶が全くなかった。
 のだが、家に帰って冷静になったら、『付き合えば毎日好きな時に、彼の目を見ることが出来るんじゃね』ということに気づいた。
 よし、明日会ったらいっちょ告白するか――

 ◆

 そうしてまた一組のカップルが生まれた
 そのカップルは、時間さえあればいつもお互いを見つめ合い、学校で一番有名なバカップルになったのであった。
 めでたしめでたし

4/7/2024, 11:31:57 AM