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「わたしはきみのことが好きなんだなあ」
 
 さんさんと光り輝くお天道様がにっこりと笑って云いますと、ちいさな雪うさぎは椿の葉っぱをそよりと折り曲げました。

「そんなあ、困りますよ。だってぼくは、ぼくは、あなたとは一緒に居られないのですから」
 
 雪うさぎは、その小ぶりな足元にさあっと広がる白をじいっと見つめてため息をつきました。きらきら、ふわりときめ細やかで、まるでお砂糖みたいな、甘あい新雪で御座います。

「嗚呼、ため息は幸せが逃げていってしまうよ」
「まったく、誰の所為だと思っているのですか」
「だってきみは、とってもかわいいんだもの。真っ赤な目も、つんと立ち上がった緑の葉っぱも。ぎゅっと押し込められた雪の、なんと艶やかなことか!宝石みたいだ」
「へへ、そいつはどうも」
「きみを見ていると、わたしはどんどん熱くなってしまうんだ。胸のどきどきが抑えられないんだ。もっときみを見ていたい。もっときみのことを知りたい!……ねえ、この気持ちはなんなのかな。きみの声も、きみの姿も、全部をわたしのものにしたい、嗚呼、嗚呼!わたしは、きみのことがすきだ!」
「わ、わ、わ。ちょっとちょっと、熱すぎですよ」

 お天道様はいつの間にか、雪うさぎの南天の目よりも真っ赤に燃え上がっておりました。よく見ますと、まるで心臓のように大きくなったり、小さくなったりを繰り返しているではありませんか。雪うさぎは頭を真っ白にして狼狽えました。

「あ、ああ。ぼくのからだが」
 雪うさぎは溶け出してしまいました。雪うさぎは、氷の粒から出来ているのです。ざんざん、ぎらぎらと眩い光を当てられたら、水に還ってしまうのです。

「待って、お天道様、お願いします。どうかぼくを好きにならないで」
「そんな、雪うさぎさん、待って、待って。わたしは、ただきみを愛したかっただけなんだ」

 冬のからっと晴れやかな空は一転、どす黒い雲に覆われていきます。ずっととおくの街からは、がらごろと雷様のお怒りさえ聞こえてきました。雪うさぎは、もうからだを保っておりませんでした。そこに在ったのは、お天道様を鏡のように映し返す小さな水たまりで御座います。

「わたしも、雪になって仕舞えばいいのに」

 お天道様も泣き出してしまいました。幽かな雲の切れ間から差し込む光が、たった一筋だけ、真っ赤な実を弱々しく照らしておりました。

#2 お題『雪』

1/7/2024, 12:59:37 PM