香る夢

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「てりやきバーガーとチーズバーガー、ベーコンレタスバーガーにポテトのL。ナゲットとストロベリーシェイクとアップルパイください」

まくしたてると、店員が呆気にとられた。
それもそうだろう。なにせ、理穂は一人でこのファーストフード店に来たのだから。
オーダーした品を全て受け取って席に着き、てりやきバーガーの包み紙を勢いよくはがした。

「大食い大会にでも出んのか」
バーガーにかじりついたまま目を上げると、クラスメイトの勇樹が呆れたようにこちらを見ていた。
「かんへいないれひょ」
「ちょっと何言ってるかわかんないすね」
勇樹はさっさと向かいの座席に座ると、チーズバーガーに手をのばした。
「ちょ、泥棒」
「食いきれるつもりか。ったく、失恋してヤケ食いとかサムい真似すんなよ」
「関係ないでしょ」
バレていたのか。
確かに私の好きだった人は、勇樹と仲のいいメンバーのひとりだった。今日告白して、彼女がいると振られたことも知っているのか。

「確かに関係ないけどね。お前があいつのこと好きだったのは知ってるし、まぁ激励でもしてやろうかと思ってさ」
「余計なお世話だわ。いっつも人に絡んできてさ。からかったり邪魔してばっかり。」
ほんとにこいつは嫌がらせばかりしてくる。私が彼に告白するため、ダイエットをしていたときも、毎日毎日購買のパンを机に投げ込んできたり。私の好きなお菓子を、これ見よがしに目の前で食べたり…。思い出すと腹が立ってきた。

「こんなに食ったらさすがに腹壊すだろ。食べる気になったのはいいけどさ…」
そう言いながら、今度はポテトに手をのばしている。
「勝手に食べないでくれる?毎日毎日人のダイエット邪魔してさ。なんだったわけ」
「食うもん食わないで、青い顔してフラフラしてりゃ気にもなんだろ」
確かに私は、最近いつもフラフラしていた。食事を極端に減らしたせいで、貧血ぎみにもなっていた。
…嫌がらせではなくて、心配してくれていたということか?

「それ以上貧相になってどうすんだよ」
「だから余計なお世話だから」
やっぱりカチンとくる。
「ほんとにいっつも意地悪なことばっかり言うよね!」
「そうか?オレけっこう優しいよ」
「どこが!!」
「好きなやつにだけ、だけど」

一瞬の間が空く。
唐突な言動につい勇樹をまじまじと見れば、彼もこちらをまっすぐ見返してくる。
いつものふざけた表情はない。

言葉が出てこずにいると、勇樹はさっさと食べ終わったものの後片付けをはじめた。
「これくらいなら、あと食べられるか?無理すんなよ。ごちそーさま」
「ちょっと待ってよ」
「今度お礼にお前の食べたいものおごるわ。なんか考えといて」
そう言って、勇樹は席を立った。私の分まで綺麗にゴミが片付けられている。

「どこでも付き合うよ。オレ、優しいからさ。お前には」

そう言ってニカッと笑った勇樹の顔は、初めて見る表情だった。
にわかにうるさくなる胸に動揺しつつも、理穂は残りのバーガーを平らげた。

1/27/2024, 4:49:22 PM