明日世界がなくなるとしたら。使い潰された陳腐な問いだと思いながら唇をなぞる。以前彼女に指摘された、俺が思考を巡らせているときの癖らしい。また無意識にしていたことに気がついて指を止めると、寝支度を整えながらこちらの様子を伺っていた彼女の口角が上がっている。多少の気恥しさを感じながら再び彼女の問いに答えるべく考えた。
明日、世界がなくなる。眠っているうちに終わるとすれば、苦しまずに終われるとするならば、これ以上の死に方はないだろう。その先は死後の世界なのだろうが、死後の幸福のために今を犠牲にすることなど甚だしいと思う俺は信心深いとは言えない。不確定なことではなく、この生への願い。
誰もが、苦しまず幸せに終わりを迎えられること。
呟くように答えた俺の額に、彼女が無言でキスを落とした。柔らかく髪を撫でる手が心地好い。俺を見下ろす彼女の頭を引き寄せ、白い額に口づける。
良い夢を、と互いにひとこと交わして目を閉じた。このまま朝を迎えなければいいのに。
『明日世界がなくなるとしたら、何を願おう』
5/6/2023, 2:11:57 PM