中宮雷火

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【星座の見つけ方】

子供の頃、田舎に住んでいた。
田舎は人間関係が陰湿で、噂話なんかすぐ広まっていた。
両親が喧嘩をすれば翌日には
「薫ちゃん、昨日お父さんとお母さん喧嘩してたでしょぉ〜」
と、近所のおばちゃん達から言われるくらい。
バス停もほとんどなく、あっても3時間に1本程度なので、自転車と車、バイク、鍛え抜かれた足などが必須だった。
当然、そこら中にお店があるわけでもなく、
小学校や中学校も歩いて結構かかるのだ。

だけど、悪いことばかりでは無かった。
何と言っても、自然が美しいのだ。
空気がおいしい。
水が綺麗(しかも美味しい)。
花が至る所に咲いている。
私のお気に入りは星だった。
夜になると、黒色の空一面にスパンコールが敷き詰められるのだ。
芝生に寝っ転がって星を眺めるのが好きだった。
冬は辺りが暗くなるのが早いので、学校からの帰り道で星を眺められた。

大学に合格した私は上京した。
初めに思ったのは、「星がない」ということだった。
建物や街灯がいっぱいあって、星なんか見つけられやしないのだ。
月明かりなんか役に立たない。
至る所に整備された花壇があって、道路なんかちゃんとコンクリートで舗装されているのだ。
暫くして大学内で友達が出来たり、バイトを始めたりして人付き合いが盛んになった。
みんな標準語だからか、次第に私も標準語になっていった。

少し秋の気配がする夜の街を歩き、駅へと向かった。
今年の正月、帰ろうかな。
地元の人達は陰湿であまり良く思っていないけれど。
やっぱり自然の美しさが好きだな、と思う。
地元に帰れば、
訛った言葉遣いではないことに驚かれて、
虫に怯えるようになって、
近くに何も無いことが不思議に思えて、
夜の暗さに目が慣れなくて、
月明かりがやけに眩しくて、
星座の見つけ方なんて忘れてしまっているのだろうな。

10/5/2024, 10:59:55 AM