スープ

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また一歩、踏み出す度に足音が鳴るのは、たったいまも自分が歩いているということを忘れないためなのだ。昨日も日が沈んだ頃に強い雨が降った。まだ誰にも舗装されていないこの道は、泥だらけのぐちゃぐちゃで踏ん張らないと滑って転びそうになるから、私は余計に強く足を踏み出す。それを繰り返していると、進むために動かしていたはずの足が、ただ転ばないための道具であるかのように思えてくる。杖が自分の身体の延長であると言っていた、あの言語学者は嘘つきだ。道具はどこまでいっても道具でしかない。次第に、ただ転ばないための道具を付け加えられた自分自身が、転ばないことを目的とした生命体であるような気がしてくる。それを否定しなければならない。私は前進している。高く足をあげ強く地面を踏みしめるのは転ばないためではない。前へ進むためなのだと自分に言い聞かせる。

8/18/2025, 4:30:46 PM