最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
今回の物語は、ここが舞台。
組織の名前どおり、いろんな世界の調停をして、取り締まりをして、それから滅んだ世界の渡航規制、航路封鎖、事後処理もアレコレ。
最近は「こっち」の世界の東京に、滅んだ世界からこぼれ落ちた生存者、すなわち難民を密航させる、
いわゆる違法渡航が多くなってきましたので、
その取り締まりと、難民の保護も、それぞれ業務として、そこそこ、増えてきました。
今回はそんな「世界線管理局」の局員が、工事用品の商談会を視察するおはなし。
お題回収役はビジネスネームをドワーフホト、
それから、スフィンクスといいました。
「おい!ホト!すげぇぞ!このスーエイハ、後部座席に冷蔵庫積んでやがる!」
その日のスフィンクスは都内巡回用車両を調達するため、商談会場の中古車を物色中。
「充電バッテリー付き、コンセント完備、停まってるときはソーラーパネルで充電可能。
ベッドも付いてる!こいつぁ最高だぜぇ」
スフィンクスが見つけたのは、いわゆるロケ車両タイプの車内改造版。
後部座席をすべて取っ払い、
右に折りたたみ可能なテーブルと収納棚、
左にベッドや椅子として流用可能なソファー。
本当に工事用かと、実は車中泊の旅行者用じゃないかと、思うほどに高機能な「移動拠点」は、
スフィンクスの目には、良いものに見えました。
これなら法務部の某「鳥頭」に車を運転させて、自分とドワーフホトは後部で楽しく、
ミカンを食ったりキンキンジュースを飲んだり、
なんならお昼寝だって、できるのです。
最高です。 工事用品だそうです。
「スフィちゃーん、キャンピングカー見に来たんじゃないんだよぉ、ちゃんと考えてぇー」
スフィンクスの親友で同僚のドワーフホトは、屋外会場の強い紫外線にさらされて、かわいいウサギとキレイなユリの日傘を標準装備。
「スフィちゃんのお金じゃなくてぇ、管理局の予算から出るんだからぁ……」
おやおや、ドワーフホトの頭上で、
チュチュチュびりり、ぴちちピピちゅピびり、
縄張り宣言にはげむ、ヒバリの独特な鳴き声。
チュチュチュびりり、ぴちちピピちゅピびり。
お題どおりの、「君だけのメロディ」です。
「すご〜く長く鳴いてる小鳥さんがいるぅ」
「鳥頭の保護者連れてくりゃ良かった」
「なんでぇ?」
「多分名前知ってる」
「そっかー」
そんなことより見てみろよ、バックドア使ってテント張れるぞ、これでこの世界探検しようぜ。
「その世界」に居るときは「その世界」を混乱させないように、そこの技術と道具と魔法と術を原則として使用することになっている管理局です。
スフィンクスはこのロケ車カスタムを、ともかくいたく気に入りまして、ドワーフホトに提案します。
ひとまず南下です。ミカン畑を見に行きます。
そして夏祭りのメロディ、その土地だけのメロディとともに北上して、車中泊などするのです。
なんと楽しいことでしょう!
「ダメだよ〜。お仕事、お仕事〜」
頭上で縄張り宣言熱唱中のヒバリを見ながら、ドワーフホト、スフィンクスに言いました。
「でもー……、車の中に、小さいけど、冷蔵庫……」
視線を地上に戻すと、ハイエンドモデルのキャンピングカーが、視界に引っかかります。
「向こう、コンロ……付いてるんだよなぁー……
ダメダメ、お仕事、おしごとぉ……」
チュチュチュびりり、ぴちちピピちゅピびり。
ヒバリは相変わらず、お題どおりの「君(ヒバリ)だけのメロディ」でさえずります。
それはまるで、ドワーフホトとスフィンクスに、
ちゃんと業務車両として考えなさいと、
言っているように、聞こえるとか、別にそんなことないとか、なんとか。 おしまい。
6/14/2025, 2:24:21 AM