『空はくを埋めるように』
「最近よく食べてるね、おでん」
「ほーお?」
応えながら頬張る君はいま、自分の猫舌と格闘している。木でできたマイ箸を持ち上げ、コンビニで買ってきたばかりのおでんを公園なんかで食べている。僕はといえば、日課のジョギング中、ぐうぜん出会った君に『なに持ってるの』とビニール袋をゆび差したら『食べる?』と誘われたから、こうしてベンチにふたり、並んでる。いたずらに空へ投げた息はしろくて、本当になんでこんな寒い中食べてるんだろうと思った。
「好物だけ残しといたよ」
「えっ、割り箸とかないの」
「持ってたし、貰わなかった」
ん、と言って木箸と一緒に差し出されるカップのお椀。残ってたのは、
「もち巾着だ」
「あなた、好きじゃなかったっけ。食べてると思い出す」
「よく覚えてたね」
「冬になるとよく食べてたじゃんか、それこそ私よりも」
「そうだったっけ」
「そうだよ」
だからおでん好きになったんだもん。
そう言って、夜を見上げた彼女の吐く息は、僕の吐いたそれよりしろく。おでんを溶かす湯気にも似ていた。
2/2/2025, 9:47:25 PM