かたいなか

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「8月12だか13日以来の、絶対エモネタ書かせるマンなお題が来た……」
日常ネタ風の連載形式で投稿を続けてきた某所在住物書きは、配信された題目に天井を見上げ、長く深いため息を吐いた。
命を火、炎、灯とするようである。それを燃やし尽くすらしい。
例として「今の社会は一部、あるいは大半で、雇い主が、労働者の命を使い捨てろうそくの如く使い潰してるんだぜ」と、世の不条理を嘆くことは可能だが、
それはそれで、筆が乗らぬ気分であった。

「じゃあ何書くって?」
物書きは再度、今度は羞恥とともに息を吐く。
「先月の『君の奏でる音楽』同様、バチクソ不得意なエモとファンタジーに極振りすんのよ」
前回それをした8月13日投稿分は、未だに自分で読み返すことができていない。

――――――

薄暗闇の室内。外に向けられた窓は無く、中央にひとり、黒い制服の男が倒れ伏しており、
は、 は、 と弱々しく、浅い呼吸を繰り返している。
力無い手の、指の2〜30センチ程度先には、闇によって色の判別がつかぬ手提げランタンがひとつ。
ゆらり、ゆらり。ゆらり、ゆらり。小さい灯火を内包し、周囲を僅かだけ、照らしている。

「世界線管理局収蔵、癒やしのランタン:レプリカ」
その光源少ない室内に、嬉々とした嗜虐で男声を投げる者がある。
「便利な拷問器具だよな。ぇえ?半径1メートル以内の生物から、命を吸い上げて、それを燃料に火を燃やすってのは?」

放置しとけば、それこそ命が「燃え尽きる」まで、周囲を照らし続ける。
毒も薬も残らねぇから、完全犯罪が可能ってワケだ。
嗜虐の声の主は唇の片端を吊り上げ、倒れ伏す男を少し離れた距離から見下ろす。
「これはそんな道具じゃない」
息絶えだえの男が反論した。
今室内を照らしているランタンは本来、ストレスや病によって生じた「魂の傷」、命の表層の炎症や膿だけ吸い上げるための、名前通り、癒やしの器具。
表層どころか深層まで燃やし尽くす使用法は想定外であった。

「コレが最後だ、ツバメ。いい加減質問に答えろ」
カキリ。小首を鳴らし、しゃがみ込んで問う嗜虐を、
「ツバメ」と呼ばれた男が、精一杯、睨みつける。
「テメェの上司、ルリビタキ部長は今どこにいる。どこで何をしている?」

「……ご本人に聞け」
部長なら今、管理局を裏切ったお前と、お前を引っこ抜いた犯罪組織を叩くために、ココに向かっている最中だよ。
遠のく意識を必死に繋ぎ止めながら、ツバメは不敵に笑った。

…………………………

「――なるほどね。たしかにこれは、難しい……」
都内某所、某アパート。
かつての物書き乙女、元夢物語案内人であった社会人が、某ポイポイ創作物投稿サービスに投稿された物語を、スマホで楽しんでいる。

乙女が読むのは「書きかけ」のタグが付けられ、キャプションで「兎→燕→瑠璃鶲は確実だけど、兎×燕なのか瑠璃×燕なのかと聞かれると難しい書き散らし」と弁明されている二次創作。
投稿作を先に読んだ別の同志からは、某呟きックスアプリにて、「曲解して兎×瑠璃の可能性が微粒子」と感想を投稿されていた。
上記にて最初に倒れていたのが燕(ツバメ)、
後から出てきたのが兎(ウサギ)、
最後名前だけの登場が瑠璃鶲(ルリビタキ)である。

「『書きかけ』のタグってことは、ちゃんと続きも出るのかな」
すなわち過去作8月13日投稿分の、まさかまさかの第2弾だが、詳細は割愛する。
「コレ、まさかツー様の命が燃え尽きちゃって、ツルの死ネタになっちゃったりしないよね?」
要するにこの乙女の心の滋養であり、妙薬である。

「……続き、はよ、はよ……」
ぽん、ぽん、ぽん。
投稿者に感想のスタンプを連打し、ため息を吐く物書き乙女。
完結編への渇望と、結末予測の衝動をそのままに、書きかけ作品の2周目を、じっくりと始めた。

9/15/2023, 4:47:10 AM