「小さい鯉のぼりだ。」
ある晴れた春の朝、くずる息子をおぶって洗濯物を干していたときだ。
息子は中々泣き止まない。疲れたけど今頑張らないと家事が終わらない。なんとか宥めていると急に息子が笑い始めた。
キャッキャッと笑う息子の目の前には小さな鯉のぼりの鯉がクルクルと踊るように泳いでいた。
鯉がポールも無いのに空を泳いでいる。
息子は鯉を掴もうとするが、鯉は器用にスルリと躱す。まるで風の中で生きているようだ。
不思議な現象で自分は疲れて白昼夢を見ているのかと考えてしまったが、夢でも洗濯物を干し切ってしまわないと思い直し、息子がご機嫌の内に洗濯を終わらせた。さらに鯉はずっと息子の遊び相手になってくれて滞っていた家事全てを終わらせる事ができた。
丁度息子がウトウトとし始めたので、少し早めの昼寝を一緒にする事にした。
ぼんやりとした視界に鯉は天井を泳いでいる。感謝言葉を心の中で呟くとそのまま私は瞼を落とした。
次に眼が覚めたのは夕方になっていた。寝すぎたと思って慌てて起きると息子は何か旗のような物を振って遊んでいた。
よく見ると小さな普通の鯉のぼりだった。
「おはよう、洗濯物は取り込んだよ。あっそれお土産ね。」
いつの間にか夫が帰宅して代わりに取り込んでくれていた。
夫のお土産の鯉のぼりはあの鯉とよく似ていてる。
息子の笑顔のため泳いでくれている。
《風に身を任せて》
5/14/2023, 11:14:05 PM