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Midnight Blue


その絵は未完成だった。
一面、midnight blueの色だけで塗り潰されたキャンパス。
同じ色を何度も重ねた筆の跡が、夜の波のように濃淡を作り出している。
美しい青だった。孤独の生々しさや肉体の熱を静かに吸い取ってくれるような、深い黒さを帯びた青。
きっとこの絵を描いた人は、今も夜の深淵に一人佇んでいるのかもしれない。虚しささえも背景にして。
この人が描いてくれた深い青の中に身を任せてしまいたかったが、朝に順応しなければならない僕は、人混みに流されてその絵の前から立ち去った。

8/22/2025, 10:25:41 PM