セーターに毛玉が出来ている。
セーターは暖かいから好きだ。
けれど、セーターに出来る毛玉だけは、
いただけない。
ただですら貧相が滲み出ているのに
毛玉が付いているセーターなんて着込んだら
貧相に拍車がかかるだけだ。
せめて、人並みになるように
安い毛玉取り機をヴィーヴィーと唸らせる。
ヴィーヴィー
小回りが利いて使い勝手は良いのだが、音が五月蝿い。
まぁ、100円ショップで買った毛玉取り機だ。
多少の不便はしょうがない。
値段の張る、良い毛玉取り機ならば静かなのだろうか。
もう少し給料の良い仕事をすれば
毛玉取り機くらい簡単に買えるのだろう。
しかし、売れないライターの身では毛玉取り機に金なんてかけられないのである。
実に世知辛い。
ハァッと付いた溜め息が6畳間に響く。
6畳1K。家賃一月、6万5000円也。
売れないタブロイド紙の隅っこにしか載せてもらえないような自分では、家賃を支払うだけで毎回カッツカツだ。
家計は常に火の車。
アチチっ。
それでも、借金はないのだから偉いもんだ。
人様に迷惑かけちゃいけないよと教えてくれたのは、今は亡き婆ちゃんだ。
貧乏飯喰らいながらも、その言葉だけは守っているよ婆ちゃん。
毛玉の取れたセーターは新品とまではいかないが
なかなか綺麗になった。
安物の毛玉取り機でも綺麗に整える事は出来る。
大したもんだ。
いつかは、こんな狭い部屋抜け出して広い部屋で、書斎なんか持っちゃってさ。
可愛くて素敵な嫁さん貰っちゃって。
子供が産まれたら、パパの本だよなんて子供に自分の本あげたりしちゃってさ。パパかっこいいなんて、言われちゃったら嬉しくて死んじゃうね。絶対そんな状況になったら死にたくないけど。めっちゃ健康的な生活して長生きしてやるけど。
取り敢えずそんな未来を夢見つつ、今使っている毛玉取り機から最新の毛玉取り機が買えるくらいには稼げるようになろう。
かつての偉人は言いました。
千里の道も一歩から。
すべての道は妄想の未来に通ず。
最後の言葉は知らない?
そりゃそうだ。俺の座右の銘なんだから。
良い言葉だろう?
11/24/2023, 11:53:58 AM