→短編・原点回帰、そしてお守り
一日の終わり、ベッドに体を横たえた彼女はサイドテーブルから1枚の写真を抜き出した。
スマートフォンで写真を照らす。分厚く白い枠に囲まれたポラロイド写真だ。
真っ暗な中に一筋の光がぼんやりと写っている撮り損ないのような写真を額にくっつける。ほんのり心に温かいものが灯る。
それは彼女が少女の頃に心を動かされて撮った、初めての一枚だった。押し入れの秘密基地の扉を閉めたときにできた僅かな光の筋の美しさが、その写真を見ると今でも脳裏にくっきりと浮かび上がる。光に集まってダンスする埃の楽しげな様子は、テレビで観たガイコクのオペラハウスを彼女に思い起こさせた。その感動を何とか留めておきたいと、無意識に彼女はポラロイドカメラを手にとってシャッタ―を切っていた。
それが彼女の始まりだった。
心を動かされる瞬間の切り取りをモチーフに写真を撮り続け、彼女はフォトグラファーになった。
数々の賞を獲得し、企業からのオファーや他業界のアーティストとのコラボ作品も多く手掛けた。大好きなカメラ撮影を仕事にできた充実感は毎日感じている。
しかし、
「いつかまたこんな一枚が撮りたいなぁ」
あの日の感動を超える写真には辿りついていない。
他の誰が見ても失敗のような、何を撮ったのかも判らない写真をもう一度眺めて、彼女はそのお守りを慎重にサイドテーブルにしまい込んだ。
そうして、大事な撮影が控えている前日のルーティンを終えた彼女はベッドに潜り込んだ。
テーマ; 一筋の光
11/6/2024, 2:54:42 AM