無音

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【115,お題:宝物】

俺は昔から人と話すのが、極端に嫌いな人間だった
夫婦仲が悪く、喧嘩の絶えない家庭だったことが原因なのだろう

そのせいか、学校では浮きっぱなしで誰も俺に構わない、俺も変に馴れ合うつもりはない

...はずだった

「駿ーっ!なあ、聞いてくれよ!さっきさあ!」

「あーうるっせぇ!ほっとけよ」

コイツは、俺の悩みの種だった
俺を見つけるなり、駆け寄ってきて大音量で騒ぎだす男子生徒
結構トゲのある言い方をしたつもりだが、コイツのマシンガントークは全くとどまるところを知らない

「つーか、そういうことは他の奴に言えばいいだろ、俺よりも反応がいいはずだ」

「でも、オレお前に聞いてほしいんだよ!」

「......ッチ...」

こうも正直に言われてはなにも言い返せず、舌打ちをして読みかけの本に視線を戻した

こんなやり取りをもう何日も続けている、アイツが毎回話しかけてきて
クソうぜぇと思いながら、渋々相手をしたりしなかったり
だんだんそれがデフォルトになりつつあった、だからこのやり取りがずっと続くと

そう思ってしまったのも無理はないだろう


卒業式が間近に迫った三学期の最後の一週間、アイツは姿を現さなかった
連絡先を交換しようという誘いをを突っぱねたことを、この時ほど強く恨んだ事はない

そのまま卒業式の当日も、その後も
アイツが俺の前に現れることはなかった


突き放して、拒絶して、突っぱねて、それでも話し掛け続けてくれて
何度も何度も「遊びに行こう!」と誘ってくれた

大切なものは失くなってから気付く、それを今痛感している

ウザいと思ってたはずだった、全部裏があると、本心ではないと
なのに、何故かそれが今

1番の宝物

11/20/2023, 10:49:52 AM