「何かあったら絶対におれさまが駆け付ける!
何もなくてもお前が死ぬ前には駆け付ける!
男と男の約束だ!」
声高に宣言する幼子に我は心の中でため息を吐く。
我はドラゴンで幼子は人間だ。種族も寿命も違い過ぎる。
我に何かあったとしてもこやつが生きているかどうか……
だが幼子の思いを無下にはしたくない。
「……ならばその時は存分にぬしを頼るとしようぞ」
「おう! おれさまにどーんと任せとけ!
いいか、忘れんなよ! 約束だぞ!」
ドンと自分の胸を叩く幼子に頼もしさを覚えると同時に、この約束は果たされることはないのだろうなと諦めが胸中に漂う。
……そして案の定と言うべきか、我に何もなく時が過ぎ、千年ほど経った。
我も年老いてしまい、天寿を全うする日が近づいてきた。
だがあやつは来ない。千年も生きる人間など聞いたことがない。
「あの大嘘つきめ……」
「だ〜れが大嘘つきだって?」
その声の方を見ると、約束したあの日と変わらぬ姿の幼子がいた。
まさかそんなはずは! と驚いていると幼子は得意げに笑って腰に手を当てた。
「そんな驚いた顔すんなよ。おれさまを誰だと思ってるんだ。
約束しただろ? 死ぬ前には駆け付けるって。
つーかドラゴンの人生……竜生? って案外平凡なんだな。危機も何も起こらないなんてな!」
「……ドラゴンを何だと思っておるのだ」
「んー……孤高の生き物?」
「ふっ、わかっておるではないか」
我らは笑った。久方ぶりにふたりで笑った。
積もる話はたくさんある。我の命が尽きるまで語り合ってもおそらく誰も咎めはしないだろう。
……しかし、なぜこやつが今も生きておるのか?
気にはなるが……それは聞くだけ野暮と言うものだろうな。
6/3/2025, 1:45:15 PM