【カーテン】
ぴたりと引かれたカーテンの向こう。僕の親友は薄布一枚を隔てた先からしか言葉をかけてこない。姿を見たことのない、声しか知らない親友だ。
幼い頃、森に迷い込み空腹で倒れてしまった僕を助けてくれた人。森の片隅に立つ小屋で暮らしているらしい彼は、僕が訪ねてくるたびに「もう来るな」と口では言うけれど、本気で僕を拒絶することはなかった。
(ほんと、馬鹿だよなぁ)
絶対に姿を見るな、見たら俺はお前を殺すと、最初にそう言われたから。僕は律儀にも、手を伸ばしてカーテンを捲ったりしないであげているけれど。
でも雲のない夜、月明かりが君の影をカーテンへと落とし出すから、僕は君が隠したがっている真実をもうとっくに知っているんだ。
獣の耳に太い尾っぽを持つ、人々が怪物と称する存在――それが君の正体なのだと。
(その程度で僕が君を嫌うわけがないのに)
いつかこのカーテンを開けて、僕は君の目を見て「はじめまして」と笑うんだ。ひっそりと胸に抱いた決意を隠して、僕は今日も明るく君へと声をかけた。
10/11/2023, 9:50:25 PM