あっはっはっ!
気まぐれな神様は、愉快に笑った。
もう動かない男を胸に抱き、泣きながら必死になにかを願う女の前に姿を現して。
だが、女は泣きすぎて視界がよく見えないのだろう。
願うことに必死で、笑い声も耳に届かなかったのだろう。
そんな愉快な神様に気づくことなく、また、その願いを思いのままに叫ぶ。
叫びすぎて、女の口から血が流れてきたとき、
神様はゆっくりと女の前に屈んで、そっと涙を拭った。
ようやく"神様"に気づいた女は目を見開いた。
だが、涙だけは止まらなかった。
『僕はねぇ、バッドエンドが好きなんだよ』
それも、こういうバッドエンド、ね。
女は止まらない涙を無理やり拭い、その目の前の"誰か"を訝しげに見る。
『でもね、』
『ハッピーエンドも、同じくらいに、好きなんだ』
女は目の前にいる者の正体に気づいた。
それも、疑うことなく、受け入れた。
『正直言って、これは、僕も予想してなかった"バッドエンド"なのさ』
だから、特別にこの結末、塗り替えてあげる。
なにをいっているのか、わからなかった。
でも、もし、そんなことが可能なら…
女が願ったものは、例え神でなくともできることだった。
やっぱりその男を生き返らせて欲しいとか?
いーや、こんなことが起こらないように過去を巻き戻してあげようか?と悩む神様の前で、女は願いを言う。
それも、最初とは違う願いを。
「私も、この人と共に死にたい」
殺して欲しいと、女は願った。
それはとても枯れていて、普通の人なら聞き取れないような声だったが、神様にはきちんと届いたらしい。
神様は驚くこともせず、悪戯げに笑って問う。
『それはなぜ?』
「…だって、大切な者の死を今現在感じて、
ずっと、心の底から愛しているこの人の冷たさを感じて、生きていくのが、怖くなったの」
「…例え時間が巻き戻ったとしても、大切な人を失うのは、もう、耐えられない」
だったら、この人と共に死に、死後の世界なんてところで、幸せに過ごしたい。
それを聞いた神様はふっと男に目をやって、また悪戯げに笑った。
『ふふふ、わかった。いいよ』
その願い、聞き届けた。
幸せそうに眠る女と少しばかり悲しそうで、でも幸せそうに笑う男の冷たさを感じて、神様はひとり呟く。
『こういう結果も悪くないね』
これがハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、
決めるのは、一体誰だろうね?
気まぐれな神様は愉快にわらった。
4/14/2024, 1:33:27 PM