作品No.2【2024/04/02 テーマ:エイプリルフール】
※半角丸括弧内はルビです。
「実はオレ、ネコなんだわ」
悠緋(ゆうひ)が突然そんなことを言うので、あたしは箸でつまんでいたタコさんウインナーを危うく落としかけた。
「悠緋さん、エイプリルフールは昨日ですが? あと、エイプリルフールの嘘は午前中までだったと思いますが? 今、午後十二時ですよ?」
「知ってるし、嘘じゃねーっつの。てか、何でいきなり敬語になってんだ、テメーは」
ムッとした顔で悠緋が言うから、何だかおかしくて笑ってしまった。
最近、エイプリルフールならどんな嘘も吐いていいと思っている人が多いような気がする。そんな嘘に振り回されることも多いあたしとしては、悠緋の吐いた嘘だとわかる嘘なんて、とても好感がもてた。
「ま、そういうカワイイ嘘なら、あたしは大歓迎だけど」
「だから嘘じゃね——いいや、もう」
諦めたように言って、悠緋はお弁当に入っていた竹輪の磯辺揚げにかじりついた。
***
「アカー? お待たせ、ご飯だよー」
その声に、オレは行儀よく座って、
「ニャー」
と、返す。遥留(はる)は、嬉しそうに笑いながら、オレの前に皿を置いた。
「ごめんねー。給料日前だから、ストックしてあるツナ缶しか出せなくて」
正直ツナ缶が一番の好物だから、なんなら毎日これでもいい——なんて、そんなことは今のオレでは伝えられるはずがないので、黙って食べることにする。
ツナ缶をガツガツと食べながら、遥留はやはり気付いていないようだ——と、あらためて思った。
自分が数時間前に会話を交わしていた人間の〝悠緋〟が、今目の前でツナ缶を食べているネコの〝アカ〟だとは、遥留はおそらく気付いていない。あのときのオレの発言を、やはり遥留はただの嘘と認識したのだ。
そのことに、ホッとしているオレがいた。自分から打ち明けたくせに、妙な気持ちだ。
本当は多分、オレがアカで悠緋だと、遥留に知られたくないのかもしれない。でも、知ってほしいのかもしれない。そんな感情があったからこそ、エイプリルフールの翌日なんて中途半端な日に、あんなことを口走ってしまったんだろう。
アカとしても、悠緋としても、遥留の傍にいられるのなら。今のオレは、それで充分なのかもしれなかった。
4/2/2024, 5:51:00 AM