仮色

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【寂しさ】

「それでさ、彼氏が酷くって!」

適当に相槌をうって聞き流していると、「本当に聞いてる⁉」とキンキンうるさい声で言われた。
面倒になってきたので聞いていないと言ってしまいたいが、ここでそう言ってしまうと悪役の天秤が私の方に傾いてしまう。

「聞いてるよ、それで続きは?」

へらっと作った笑いを見せると、ちゃんと聞いててよね!と一言言ってから彼氏がなんやらかんやらの話に戻った。
…無駄に長々と喋らないで欲しい。正直何を話したいのかが全く分からない。
今度はちゃんと聞いてるよう見えるように気を付けて聞き流していると、言いたいことを取り敢えず言い終えたらしい彼女は「ふぅ」と一息付いた。
時計をちらっと確認すると、30分も経っているようだった。

「それでさ、あなたはどう思う?」
「うーん、そうだな…」

ただ聞いてほしいだけかと思っていたので、急に意見を聞かれて少し焦る。
取り敢えず当たり障りのない彼女を庇うように何かを言えば良いだろうと考えて、そこに私の本当の考えなんかないことを口から出す。

「あなたは悪くないよ、もしまた何かあったら気軽に言ってね。相談乗るよ」

重みなんか無い私の言葉に、彼女はぐすっと鼻を鳴らして頷いた。
こんな嘘にも気付けないなんて、詐欺に引っかからないか心配になるな、と少し思いながら私はその場を去った。
うだうだそこに居続けて、一緒に帰ろうなんて言われたら最悪なので。

「…寂しい、か」

聞き流していた話の中で、いちばん沢山出ていた単語。
彼氏が居るのだから、ただ嬉しいだとか愛しいだとか、それだけを感じていれば良いものを。

…寂しいなんて、満たされたことのある人間しか感じない。

寂しい、さみしい、一緒に居て。
それで側に居てくれた奴がいた人間は、更に温かさを求め始める。
哀れだな、と少し思って、そんなことを考えた自分に笑った。


「…哀れはどっちだか」

12/20/2023, 8:51:42 AM