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 息を吸う。吐く。手の震えを抑えて、そっと顔を上げる。眼前の人は、疑問と期待の間で揺れ動いているように見えた。──あるいはそれも、都合の良い錯覚かもしれないが。
 どれだけの大舞台の前だって、これほど緊張したことはない。けれど仕方ないだろう。だって、これが本当の、「一世一代の大舞台」というやつなのだ。
 成功しなくても良い、というのは、きっとただの強がりだ。受け入れてもらえなければひと月は寝込む自信がある。……まして、私達は女同士。ひどい拒絶なんてされたら──いや、いや、今は考えまい。
 もういちど。息を吸う。吐く。緊張したら深呼吸、というのは、ずっとずっと前、あなたが私に教えてくれたこと。あなたが覚えていないほど前のこと。
 カーテン越しの夕陽がやけに眩い。きっとあなたを背負っているからだ。そんなことを思って、私は輝きに向かって口を開いて。

「あの、あのね。私、あなたのことが、ずっと──」

8/10/2023, 4:59:39 AM