はす

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七色

昼下がり、人気のない神社の社の軒下で少年は雨宿りをしている。突然降り出した空模様を窺っていると、張り出た軒から落ちた大きな雨の雫が睫毛を掠めて、慌てて目を瞑った。
「ごめん、遅くなった」
雨垂れの中からふいに声がした。いつの間にか、白い単衣に赤い耳飾りの少年が欄干に静かに立っている。大丈夫だよ、と返すともう一人の少年は生憎の雨だね、と耳飾りを揺らしながら空を仰いだ。
二人は友人で、よくこの神社で遊んでいる。赤い耳飾りの少年には此処でしか会えないから、神社以外の遊び場所を彼らは知らない。

少年は揺れる耳飾りを見つめた。この子は不思議な子だ。会いに来れば大抵はこの子はいるけれど、たまにふらっと何処かへ行ってしまう。居なくなったと思えばすぐに戻ってくることもあるし、二、三日全く姿が見えないこともある。掴みどころが無くて、ふいに消えてしまいそうな感じがする。でも、この子と此処で遊ぶこの時間が少年は何よりも好きだった。今日はすぐに現れてくれたみたいだ。

「これじゃ遊べないね」
「大丈夫、もうすぐ止むよ」
その言葉通りにだんだんと雨足が弱まり、直ぐに雨は止んだ。
「そうだ、待たせたお詫びに良いものを見せよう」
耳飾りの少年は空を見上げた。それにつられて見上げると、雲間から薄日が差し込み、神社を淡く照らし出した。ずっと見ていたけれど、だんだんと晴れていくばかりで特に何も起きない。
「何も見えないよ」
「あれ、…虹を出したんだけど」
虹?虹なんて何処にも見えない。
「ああ、間違えた。ここがふもとなんだ」
「ふもと?」
「そう。ここが虹の端。この神社から虹が出てる」
「…それは凄いけど、ここからじゃ見えない」
それもそうだ、なんて間の抜けた返事を返された。ごめんね、と謝られたが、虹が見えなくて少年は寂しかった。
「虹を見るには角度が必要だからね。ある程度の距離が必要なんだ。近すぎると見えなくなるから」
よく分からなくて少年は首を傾げた。この子はたまに難しい事を言う。
「離れてみるくらいがちょうど良い。いつか分かる様になるよ」
少年がそう言うなら、きっとそうなのだろう。
「そんなことより、せっかく晴れたんだ。遊ぼう」
二人は雨上がりの中、陽の光の中へ走り出した。

3/27/2025, 6:49:33 AM