不意に太腿がひやりとした
食べていたアイスが溶け落ちたのだ
慌てて持っていたアイスの下側に齧りつく
扇風機とアイスの相性は悪い
前の住人が残していったと思しき扇風機は
風量調節や高さ調節もできない
首振りの機能すら付いていない
ただ風をまっすぐ前へ送るだけの単純な構造
今時見ないレトロな型で最早遺物レベル
エアコンのないこの古いアパートの一室に越してきて数年
そんな扇風機に毎夏自分の命を預けている
だが今年の夏は例年にも増して暑い
暑さに比例して着ている物の布の面積が小さくなっていき
今ではタンクトップと短パンだけ
これより暑くなったらどうするかなと
暑さで回らない頭でぼんやりと考えながら
ひと時の涼を求めて冷凍庫からアイスを取り出す
ストックしておくつもりで買ったアイスが
冷凍庫に入れたそばから消えていく
如何せんこの茹だるような暑さには敵わない
それにしても
何故扇風機の風を浴びるとアイスが早く溶けるのか
気になってスマホで調べてみる
"アイスの表面には静止した冷たい空気の層があるが
扇風機の風によってその層が薄くなり
空気の熱が伝わりやすくなるため早く溶ける"
ということらしい
画面を眺めつつなるほどと納得していると
また太腿がひやりとした
自分の迂闊さに苦笑いしながら
残りのアイスを食べきる
扇風機が生温い風を送っている
やはり扇風機とアイスの相性は悪い
―――扇風機とアイス
#80【こぼれたアイスクリーム】
8/12/2025, 1:07:17 AM