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〜行かないで〜

この病院に来て15年
1人病室のベットに座り外を眺める
青空と白い雲
季節は夏
入道雲がモクモクと漂ってじんわりと汗をかく
自分は重い心臓病と白血病をもっている
どちらかで手術が成功しても片方が間に合わなければ死んでしまう可能性もあると言う
学校はリモートで参加し少しだけ病院の中に設置されている庭を歩く
軽い運動を経て病室に戻ってきたところだった
昼食は喉を通らない
薬を飲むためにゼリーは流し込む
そして薬を水で流し込んで飲み込む
ゴポッ…
と喉がなり急激な吐き気に見回れる
ゔぐ…ぅ、げぇ…
床にびちゃびちゃといまさっき流し込んだゼリーや小さい薬が落ちる
またやってしまった……吐きそうになったら袋に吐かないといけないのに…怒られるな、これ
そう思いナースコールをする
予想通りこっぴどく叱られ、外してしまっていた点滴のチューブを付けられる

【汚ねぇな】
そうモヤのかかったような声が窓の外から投げかけられた
なんの姿かは分からないが侮辱された
誰…だよ、あんたは…
【俺か?ここの病室に住み着いてる幽霊だ、驚いただろ〜泣き叫べぇ!!】
アホくさい
なんだかとってもアホくさい
幽霊なんてこの世に存在するわけない
理由は?根拠は?姿見せてくださいよ…!!
問い詰めると【ゔっ…】と息を詰めるような音をさせて答える
【お前のすぐ横に俺いるんだぞ、見えないなら姿見せろとか無理だろ】
そ、それは確かに……
へっと鼻で笑われよりいっそうカチンとくる
15年間この病院にいるがこんな子見た事もない
だからといってイタズラにしては度が過ぎている気がする
ここは10階で木の先があるだけ
そこも乗ろうとすればボキッと折れてしまうはずだ
そんなことを考えると背筋が凍る
やめやめ…考えたら、まけだ…

不思議な少年と出会って少し経ったがなかなか話せるようになった
あの疑問はもう頭に浮かび上がってくることは無かった
【なぁなぁ~お前好きな人でもいるの?毎回毎回勉強も頑張るし、病気治すのに必死だし】
す、きなひと?…居ないよ、学校行ったことないから…今行ってもきっとハブかれる…
1度も言ったことがないと伝えると申し訳なさそうな声色で【ごめん、聞かなけりゃ良かったな】と言い返してくる
別に嫌な話じゃない
元々人付き合いが苦手で学校に行くことを酷く恐れていたから今のこの生活は楽といえば楽だ
薬を飲んで毎回戻すのは辛いけれどそれを抜けばオールOKだ
「最近1人でブツブツ何言ってるの?窓の外に向かってさ」
え…?
聞くと何も聞こえないし、1人でブツブツ言ってるだけらしい
「あぁ、もしかしたら幽霊かねぇ~w昔ねここに入院してた男の子がいたんだけどね、その子があと少しで手術の日になるって時に飛び降りしちゃったのよ」
「あったな、頭から落ちたから原型も分からない状態で、可哀想だったよ、きっと手術が怖かったんだろうな」
そ、うなんだ……

【……聞いたんか?どうやった…無様やろ】
手術ごときで怖がって死んだなんてカッコつけらんないし家族に合わせる顔もないわ、物理的にもなと悲しそうに言う
あぁ、1度だけでいいから姿を見てみたい
もっと近くで関わりたいと初めて思った気がする
色んな人と距離を取ってきてこんな感情は初めてだ
【もう、ここにいる意味ないんよね、お前と話せて楽しかったし、そろそろ行こうかな】
え……待って、行かないで…
【ありがとうな、お前は頑張るんやで俺はほかのとこから見てるから、まだこっち来んなよ】
ふわっとカーテンが舞う
青い空を彼は満面の笑みで昇っていく
蛍のような暖かい光をひとつ両手に包み込みそれを天に送り出す


それが初恋でありひと夏の思い出だ

10/25/2022, 9:43:54 AM