川柳えむ

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♪笹の葉さらさら 軒端に揺れる
 お星様きらきら 金銀砂子

 商店街に大きな笹が飾られていた。一ヶ月後の七夕に向けて用意されたらしい。
 たくさんの願い事が短冊に書かれて並んでいた。
 願いはかわいいものや切実なもの、笑えるものまで様々だ。
 面白がって私もさらさらっと書いてみる。
 それを飾っていると、通りがかりのおじさんが突然とんでもないことを言ってきた。

「この笹は、本当に願いを叶えてくれるんだよ。もちろん、全部じゃないけどね」

 もちろん叶えば嬉しいし面白い。
 でも、正直叶うとは思っていない。
 これだけたくさんの願い事があれば、叶うものもあるだろうし、叶わないものもあるだろう。当たり前だ。
 なので、おじさんの言うことは気にせずに、その場を後にした。

 そんなこともすっかり忘れて、気付けば七夕だった。
 七夕だからといって、何をするでもない。普通にその日は眠りに就いた。

 笹の葉と短冊が、さらさらと揺れている。
 誰かの願いが、風に運ばれて、天に昇っていった。
 そんな夢を見た。

 次の日。テレビをつけてニュースを見てみれば、世界はとんでもないことになっていた。

 どうやら、この世界は本当は存在しないらしい。
 ――どういう意味かわかるか?
 この世界は、誰かに書かれた物語らしい。読んでいた小説の中に転生した話とか、よくあるだろ、そういうやつ。つまり、この世界がそうらしい。何かの小説なんだと。

 ――[この世界がフィクションでありますように]

 こんなわけのわからない願いが、叶うとは思わなかった。別に叶えたいとも、さらさら思っていなかった。
 特に意味もなく、ふざけて書いただけだぞ?
 有り得ないじゃないか。この世界はフィクションで、自分すら本当は存在しないなんて。

 なぁ? もしかして、見えてるのか? この世界が。どこかで読んでるのか? おまえの目に、私はどう映っている? 変わってくれないか? この世界が存在しないなんて、私が存在しないなんて、狂いそうだ。なぁ、お願いだ。
 この願いを、取り消してくれ。


『さらさら』

5/28/2025, 11:27:44 PM