NoName

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 ふと見ると、隣の席で彼が笑っていた。視線の先にはカレンダー。今日の日付けの部分には何も書かれていないようだ。
「どうしたの? 何かいいことあった?」
 思わず話しかけてしまう。それくらい、彼は幸せそうに笑っていたから。
「え? ああ、えへへ……すみません、ただの思い出し笑いです……」
 声をかけられると思っていなかったみたいで、彼は少し目を丸くしたあと、困ったように眉を下げた笑顔に変えた。どちらの笑顔も素敵だと思う。
「思い出し笑い……どんなことを思い出してたの?」
「ふふ……それは秘密、です」
「ええ、教えてくれないの!」
「いくらあなたでも、教えられません……ふふ……!」
 柔らかな口調で、優しく拒否される。不思議と嫌な気持ちは湧かなかった。ただ、この世のどこかには彼の「思い出し笑いの真相」を知れる人がいるのかと思ったら、ほんの、ほんの少しだけ、切なくなる。



(去年の今ごろ、ぼくはあなたに出会ったんです。)

【初恋の日】

5/8/2023, 10:04:38 AM