紅月 琥珀

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 たくさんの星が見える場所が好きだった。
 キラキラと煌めいて、でもその輝きは気が遠くなる程昔の輝きだと聞いて⋯⋯より一層、星に興味を持った。
 星を見るのは、とても幸せな時間だった。どんなに寒くてもあの瞬く星々を見ていると、心が晴れやかになるから。
 それが⋯⋯大好きな君と見るものならより一層そう思えたんだよ。

 夢の為に君から離れた事を、あの日からずっと後悔していた。
 星が好きな事に変わりはない筈なのに⋯⋯あの日から何か欠け落ちたような、少しくすんで見える星空(そら)。その答えはきっと、隣に君がいなかったからなんだと思う。
 君と共に見る景色は、星空でなくてもいつも煌めいて美しいものだったから直ぐに理解できたんだ。
 あの日、君の手を迷わず取っていたら今日この日を2人で迎えられたのだと思うと、とても悔しく思います。
 だからこそ、銀河鉄道が私を見つけてくれるように―――この場所を死に場所に選びました。
 私か君、どちらが先に乗れるのかは分からないけど⋯⋯同じ鉄道に乗れたらなんて祈りながらこの手紙を書いてます。

 でも、本当は君だけでも生き残って欲しいなって思っています。私がダメでも、きっと他にも生き残れた人が何処かに居るはずだから、その人と仲良く楽しく人生を謳歌して欲しいと⋯⋯そう思う私を、どうか許してください。
 身勝手に夢を追い、君を置いていった私が―――また、君を置いていく選択を取ろうとしている事を、どうか嘲笑(ゆる)して下さい。

 ◇ ◇ ◇

 その人は高台に設けられた展望台のベンチで眠るように息を引き取っていた。
 有名な小説を大事そうに抱えていたから、一言断りを入れてその本を手に取り中を拝借。すると彼女の遺書が見つかり、以前に見かけた男性の遺書と似通った記述を発見する。

 私は鞄から彼の遺書を取り出し、その本の中に彼女の遺書と共に挟むと元の位置に戻す。
『あなたの大切な人から預かった手紙です。2人とも銀河鉄道に乗れてると良いけど⋯⋯私には確認のしようがないから、一応渡しておくね。また2人で星を見られるように、私も願っておくよ』
 そう言って彼女の亡骸に手を合わせてから、私はその高台を後にする。
 少し先に野宿出来そうな所を見つけて、今日はそこで寝ることにした。
 夜を迎えたその場所は、高台程ではないのだろうけど⋯⋯とても綺麗な星空で、きっと彼女はこの景色をあの男性と共有したかったんだろうなって思う。
 2人がもう一度この星空を一緒に見られれば良いなと思いながら、その日は眠りにつくのだった。


3/21/2025, 12:53:30 PM