だいぶ昔の記憶だ。
小さなお嬢といつもみたいに芝生の上で寝転がりながら、俺は少し緊張して話し始めたと思う。
『なあ、お嬢に聞きたいことあんだけど』
『なぁに?』
『こないだ、親父さんにさ。なんなら本当に養子になるかって。聞かれたんだけど』
『とうさまに? ……ヨウシ?』
『うん。あー……えっと。つまりだな。俺と、お前の親父さんが、親子になる書類みたいなのを書いてだな……』
ハテナマークが浮かんでいるお嬢に何とかかいつまんで説明しようと、俺は頭を捻った。
『つまり、養子ってのは。親父さんと俺が本当の親子になって。お嬢と俺は、本当の兄妹になるってことだ。……どう思う?』
『ほんとうの、きょうだい?』
『ああ。お嬢は、俺とそうなりたいか?』
『……。……うーん。こまる……かな』
お嬢はしばらく俯いてから、小さな声でそう言った。
俺はそのとき、少なからずショックを受けたのを憶えてる。だって、俺はお嬢に背中を押してもらうつもりで聞いたからだ。きっとお嬢ならいつもみたいに花が咲くように笑って、俺と兄妹になれるのが嬉しいって言ってくれるんじゃないかと。
『そっか。……困る、か』
『うん。……だって』
色んなモヤモヤがグルグルと心に渦を巻いていた気がする。けれどそんなもんを吹き飛ばすくらい、膝を抱えたお嬢から続いた言葉は予想外すぎた。
お嬢の真っ赤に染まった柔らかそうな頬っぺたも、少し拗ねたみたいな表情も。……まあ、なんだ。当時、どこまで、どういう意味であれ──絆されてしまうには、十分すぎたみたいで。
『……だって。きょうだいになったら……およめさんに、なれないでしょ?』
7/18/2024, 7:06:08 AM