古いラジカセのスイッチを押すと、ノイズ混じりの音が流れてきた。
しっとりとしたスローテンポの曲が流れる。なんという曲かは分からなかった。
「踊ろう」
手を差し出され、僅かに戸惑う。
その手を取るべきか悩んでいると、なかば強引に引き寄せられた。
「揺れてればいいから」
錆び付いた音に合わせてぎこちなく肩を揺らすとくふ、と小さく笑う声。
「それでいいよ」
相手は僅かに目を伏せて、心地良さそうに男に身を預ける。最小限に絞ったライトが、二つの揺れる影を壁に映し出す。
言葉は無い。
互いに触れ合う場所だけが、火がついたように熱い。
「君だけだ」
花びらがひらりと落ちたような、そんな声だった。
肩口に寄せられた唇がぽつりと漏らした声。それは普段からは想像もつかないほどに余りに儚い声だった。
「この地獄には、もう君と私しかいないんだ」
官能的に体を揺らしながら全てを明け渡したようなその声は、男の胸に強い衝動を呼び起こす。
「離さないで」
その言葉に「当たり前だ」と短く返す。
――薄氷の上で二人、死ぬまで踊り続けよう。
END
「静かな終わり」
12/29/2025, 4:00:57 PM