池上さゆり

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 その場にいた誰よりも私は絶望していた。高校最後の絵画のコンテストで私は最優秀賞を取れなかった。現地で、どんな作品が選ばれたのかを見に行こうと足を運んだのが間違いだった。
 私は今まで使ってきたキャンバスの中でも一番大きなものを使って、海に映る宇宙を描いた。キャンバスが大きい分、どこから見ても完璧になるように、どこから見ても美しいと思ってもらえるように、どこから見ても粗がないように。そう意識して完成させた作品は最後の作品としては文句のつけどころがないほど、美しく仕上がった。自分でも、こんなふうに描くことができたのだと感動するぐらい、私は過大評価をしていた。だが、当然完成させた時はそれが過大評価だなんて思っていなかった。妥当な評価だと。これで最優秀賞とって、美大に進学する許可をもらおうと思っていた。
 それなのに、最優秀賞という札の上に飾られていた絵は、私のキャンバスの半分もないサイズで、美しい花を食べる死体のような女の人が描かれていた。人間をモノクロで描いて、花には対照的な鮮やかな色が使われていた。技術も感性もすべて負けたのだと感じてしまった。
 泣きながら美術館をあとにした。なんの札ももらえなかった私の自信作は展示が終われば、家に送られてくる。
 だが、そんなものを飾る場所はない。学校でしか絵を描くことを許されていなかった私にとって最後のチャンスだった。最後にSNSで自分の絵を載せた。次々といいねが押されていく。ネットではこんなに評価してもらえるのにと、悔しくなった。帰宅して、一番に今までの画材をすべて捨てようと思った。光続けているスマホの電源を消そうとしたところでDMが届いていることに気づいた。
「今日、その展示会に行ってきました。誰よりも輝いてみえてとても綺麗でした。今日初めて知りましたが、今後の活動を応援させてください」
 その名前に私は見覚えがあった。間違いなく、最優秀賞を獲っていたあの人の名前だ。嫌味かと思ったが、それ以上にこんなふうに言葉にして私の絵を褒めてくれたのが嬉しくて泣いてしまった。
 私も、一番になれるような感性が欲しかったよ。

2/16/2024, 2:15:27 PM