『1人のヤギ』
僕は今、森の奥の小屋で1人で暮らしている。そして、毎日ベッドで泣いている。その理由は話せば長くなる。せめて僕の心を軽くするために聞いてくれ。
僕は、七人兄弟の末っ子として生まれた。5歳になった頃、母が街に出かけるからと留守番を頼まれた。特に問題もなく母が帰ってきた、と思った。だが、その瞬間オオカミが家に入ってきた。母は子供を守るため立ち向かった。兄たちは、机の下、寝床の中、暖炉の中、台所、戸棚の中、洗濯だらいの中に隠れた。僕は、箱時計の中に隠れた。
母の悲鳴が聞こえた。助ける勇気なんかなく、耳と目を塞いだ。その後、3番目の兄の悲鳴が聞こえた。次に一番上の兄の悲鳴が聞こえた。
悲鳴が全部で7回聞こえた後、途端に音がなくなった。恐る恐る時計から出る。棚のものが落ちていて、椅子は倒れていた。何より、この家に僕以外いなかった。その事に気づいた瞬間、泣き叫んだ。喉が潰れても、顔がぐしゃぐしゃになっても、夜でも朝でも、涙は止まらなかった。 「ぐぅ~」お腹がなった。そういえば、何も食べてない。僕を別の恐怖が襲う。これからどうやって生きていこう。お腹が減って何も考えれない。暗くなって来た頃、玄関のドアが開く。黒尽くめのクマが入ってきた。僕に手を伸ばす。殺される、死を覚悟した。だが、そのまま抱き上げられてクマが乗ってきた馬車に乗せられた。助かった?
しばらくして、大きなお屋敷についた。「歩け。」そう言われたけど、足がすくんで立てない。あれ?何も見えない。意識がなくなった。
起きるとベッドの上だった。クマが入ってきて、「起きたか。ほら、食え。」パンとスープを差し出してきた。「食いながら聞け。お前には元気になったらここで働いてもらう。旦那様の召し使いだ。覚悟しとけ。」そう言うと出ていってしまった。
次の日から仕事の内容を教えられた。朝から晩まで仕事でみっちり。
でも、死ぬよりマシだと働いた。
十年が経った。死ぬよりマシなんて考えはもうない。これは生き地獄だ。少しでもミスをすると罵倒を浴びせられ、無理難題を押し付けられる。何度も死のうと思った。でも怖くなってやめてしまう。僕は逃げてばっかりだ。そんな自分が嫌になる。
二十歳のときに逃げ出した。お屋敷から遠い、音の無い森に。そこにはホコリまみれの小屋があった。そこに住むことにした。掃除のとき、召し使いのスキルが役に立って、この時だけは感謝した。少し修理とかもして、住めるようになった。その時、少し涙が出た。あの生活から逃げ出せた安堵からの涙だった。そして、僕は決心した。これからは、誰の力も借りず1人で生きていくと。
そして今に至る。冒頭にも言った通り、僕は毎日泣いている。あの決心の後、この生活は逃げということに気づいたからだ。過去のトラウマから逃げるために1人で生きようとしているのではないか。また、自己嫌悪に陥ってしまう。それは、今も続いている。家族は死んだのに、僕だけ生きていて、なのに逃げばっか。
…これ以上話すと泣いてしまいそうだから、話をまとめる。僕は、トラウマと死から逃げたい。だから、1人でいたい。
7/31/2024, 12:47:34 PM