かたいなか

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「月の雫は露の別名、またはブドウを使ったお菓子。雫酒はその名のとおり雫の一滴一滴を集めた酒。
雫石は地名でアマゾンの雫はピーマンで露草は草」
意外と色々あるのな。某所在住物書きは「の雫 酒」で検索をかけながら、これは高いが美味そう、これは手頃だからすぐ買える等々、検索結果を眺めていた。

「雨系のネタと親和性高いのは、去年も考えてた」
というのも、このアプリにおいて「雨」や「空」に関するお題は比較的多く遭遇するのだ。
「空系、雨系で何かハナシのストック作っておいて、いざというときにそこから引っ張ってきて」
まぁ、ひとつの手よな。物書きはメモアプリを開き、書きかけの200字をスワイプでコピペして、
そこから物語を繋げられず、結局新規作成に戻った。

――――――

今日も雨、明後日も雨予報。今週の東京の前半は、どうやら天気があまり良くないらしい。
ともかく髪のセットが面倒。
同じ支店勤務で、1週間だけウチの支店に体験勤務の新卒ちゃんは、申し訳無さそうに寝癖直しスプレーで、広がる癖っ毛を抑え込もうとしてる。
私愛用の流さない多機能ヘアトリートメント塗ってあげたら、「この人は神か」って顔された。
学生時代は親の支援で、ずっとずっと、縮毛矯正でなんとかしてたんだってさ。
わかる(フォロワーさんにも苦労してる人がいる)
わかる(湿気に負けるな新卒ちゃん)

「ただいま戻りましたぁー!」
外回りの野暮用から帰ってきた付烏月さん、ツウキさんは、タイミング悪く雨に当たっちゃったらしい。
「うへぇ、水もしたたる、……へっッくしょい!!」
すいません、ちょっと、タオルタイム貰います。
髪から雫をポツポツ床に落としながら、こっちもこっちで、申し訳無さそうに。

「あ、後輩ちゃん、丁度良いところにヘアオイル持ってるじゃん。ゴメンあとで貸して」
「1回500円。多機能ヘアトリートメントね」
「物々交換オッケー?クッキー焼いたの」
「あざます!」

「あと新卒ちゃんの顔真っ青、どしたの」
「大丈夫多分『500円』を真に受けてるだけ」

ぽたぽた、ポツポツ。
制服の上着を軽く乾燥機にかけて、タオルで頭の水分を飛ばして。床に落ちた雫はそのままにしておけないから、モップで拭いて。
「そういえば、」
で、付烏月さんが、私に言った。
「珍しく雨の日に加元を見たよん」

加元。かもと。今どこに住んでて、どの部署で仕事してるとも知れない先輩の元恋人。
雨も自然も田舎も嫌いで、厳選厨の理想押しつけ厨で、恋に恋したいだけで、わざわざ先輩を探し出してヨリを戻すためにウチの本店に就職してきた。
「まじ?」
「うん。俺のこと見た途端逃げてった」
「ナンデ?」
「知らな〜い。4月12日付近にアパートでバッタリして、声かけてから、まるで俺が天敵みたいにさ」
「ふーん」
私も先輩の居場所は確証が持ててない状態だけど、
加元さんも同じく、あるいは私より全然、先輩の3月からの異動先は掴めてないらしい。

「後輩ちゃん、お昼だけど、一緒に外行かない?」
遠くを見て、何か考え事をして、それからそのまま視線を移さず、付烏月さんが私に言った。
「なんとなくね、俺の勘が、今日のお昼休みは支店から離れた方が良いような気がするって。囁いてるの」
付烏月さんが見つめてる「遠く」には、支店の窓。
ガラスに小さな雫が付いて、落ちて。 外は加元さんが嫌いで先輩が大好きな、雨が降ってる。

4/22/2024, 3:08:41 AM