さいか

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力を込めて。


 鉄臭い血の匂いと、咽せ返る土の匂い。戦いの衝撃で崩落した瓦礫の中、仲間の元へただひた走る。

 魔王の振り下ろした刃先が触れる寸前、滑り込み、剣で弾き返す。そのまま反撃に移った。が、難無く防がれ、ついでに、とでも言うように吹っ飛ばされた。

 地面に叩き付けられ、衝撃で肺の空気が全て吐き出された。体が軋む音がする。仲間の悲鳴と、魔王の嘲笑が重なり合う。

 怖い。逃げ出したい。もう戦いたくない。

 頭にチラつく弱音を、雄叫びで誤魔化した。それでも、今にも剣を取り零しそうな手の震えは止まらない。

 本当は、こんなことなんてしたくなかった。戦いとは無縁で、のどかな生活を、ずっとしていたかった。

 怖くても。体がもう限界だと警鐘を鳴らしても。母さん、と泣け叫びたくても。勇者の血、とやらの責務だけで、僕は全てを押し殺さなければならない。自分の為ではなく、皆の為に、世界の為に。最後の力を振り絞って戦わなければ。

 例え、この身が砕けようとも、魔王さえ倒せればハッピーエンドなのだ。

 それが、皆が、世界が。僕に……勇者に負わせた、役目なのだ。

10/8/2023, 1:52:02 AM