かたいなか

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「天の川、織女牽牛、織姫彦星、夏の大三角に笹の葉、短冊、願い事。あと何だ?」
そういや小学生の頃、七夕ゼリーみたいなの食ったような、虚偽記憶のような、気がするなぁ。某所在住物書きはソーダ味のアイスをかじり、冷えた黄金色を飲みながら、扇風機の快風に浸っていた。
久方ぶりの年中行事ネタだ。2月にバレンタインがあり、3月はひなまつり。5月5日の子どもの日は別のお題であった。
「『7月7日』という日付についてのハナシを書くか、七夕からイメージする単語の方を重点的に書くか。伝説系に天文学、欲望に恋愛。切り口は、まぁ、そこそこ複数、有るっちゃ有るのか」
ま、俺はぼっちだから、七夕に誰かと予定なんざねぇけど。物書きは小さく息を吐き、アイスをかじる。

――――――

7月7日だ。七夕だ。猛暑の日曜日だ。
天の川を見に行こうとか、七夕の天の川イベントに行こうとか、天の川な七夕そうめん食べに行こうとか。そんな提案が浮かばない程度には酷い熱帯夜だ。
それもその筈。今日は最高気温が35℃で夜の気温も29℃前後。あつい(ふぁっきん熱帯夜)
あつい(大事二度宣言)
7月8日の最高予報が39℃とか絶対虚偽(願望)
七夕がもうちょっと秋寄りとか、なんなら4月あたりの涼しい頃なら、天の川も見に行きやすかったのに。

「つまり、天の川が見たいんだな?」
穏やかな白さの甚平で、晩ごはんの準備をしながら、先輩が私に声をかけてきた。

私の部屋の上階さんが七夕パーティーか何かしてるらしくて、バチクソに酷い騒音と振動なもんで、
管理人さんに対応してもらってる間、長い付き合いな職場の先輩のアパートに避難中。
ただでさえ暑さと湿気でメンタルと自律神経やられてるのに。ガチで迷惑ハナハダシイ。
で、お金とちょっとの食材をリリースして、先輩に晩ごはんとお茶を召喚してもらってる。

エアコンの涼しさの中で飲む40〜50℃前後はお腹に優しい心地で、滋味滋養。
今日のお茶はハーブティー。先輩がわざわざ、いきつけの茶っ葉屋さんから、私の具合の悪さに合わせてブレンドしてもらってきてくれたらしい。
オマケにそこの看板子狐がセラピーフォックスとして、先輩の部屋、私の膝の上に、絶賛無償出張中。
こやーん(コンコンかわいいです)

「来年、2025年9月8日が狙い目だと思う」
で、その先輩が、来年の「七夕じゃない日の天の川」の見方を情報提供してくれた。
「どこか、街の光から遠い、暗い場所。可能であれば山の上が望ましい。皆既月食だ」

「月食?」
「天の川はとても光が弱い。街灯や、月の光でも、見えづらくなる。皆既月食は、月を光らせる太陽の光を、地球全体が遮ってくれるわけだ」
「織姫と彦星の通せんぼしてるのに、弱いんだね」
「私も不勉強だからよく理解してないが、この月食のときに、一緒に天の川が見られることがあるらしい。見頃は、午前2時半付近から3時50分頃までだな」
「ふーん」

天の川って七夕オンリーなイメージあったけど、別に、七夕じゃなくても見られるんだ。
へー、って思いながら、またハーブティーを飲む。
「織姫と彦星も、七夕以外の日にこっそり、実は会ってたりするのかな」
「なんだって?」
七夕と皆既月食が重なる日をスマホで調べたけど、
2047年らしいから、スン……てなってやめた。

「だって天の川だって七夕以外の日に出てくるんだもん。織姫彦星も七夕以外に会ってたり、って」
「天の川が見られるのは天文現象で、織姫と彦星が会うのは伝説だろう」
「民間信仰はたまに後世によって書き換えられるって昔授業で聞いた。今の二人実は時々会ってる説」
「随分、随分な新説だな……?」

7/8/2024, 3:19:59 AM