風景
2025.4.12
俺と弟は今、本州と四国をつなぐ橋を車で渡っていた。
今は午前10時頃。
天気は晴れ。柔らかな太陽が波を照らして輝く。
遮るもののない水平線。穏やかな海に浮かぶ島の数々。所々には船が浮かぶ景色が、視界に入る。少しぼやけた島は、四国だろうか。
少し開けた窓からは、春の風が吹き込み、俺と弟の髪をバサバサと乱す。
橋の上、アクセルを踏み込んで行く。
巨大な橋桁、広い道が前から後ろへ流れていく。
いつも勤務先のビルや自宅に籠もっていると、なかなか海など見ることもない。
そもそもこうして車で出かける機会がまず無い。
俺が前を見て運転に集中しているところ、弟が助手席で窓から身を乗り出しそうになりながら海を眺めている所が、ミラーに映った。
「危ないぞ」
「だって! すごいよ! 兄さんも見てみろよ!」
ハイテンションな弟の声が車内に響くと、運転席に身を乗り出す。そして俺の肩を叩いて窓の外を見るようにと急かした。
「やめろ!」
俺は弟をなんとか助手席に押し戻した。
危なかった。風でハンドルを取られるところだった。
俺は隣で盛り上がる弟を無視して運転に集中する。景色に夢中になりかける自分に気がつくと、慌ててハンドルを握りしめた。
俺も気が緩んでいるようだ。弟を笑えない。
やがて、橋の先に見える木々が近づいてきた。そろそろ四国へ入る。
四国で食べるうどんのためだけにドライブをしていたが、橋から眺める景色が予想以上に素晴らしかった。来た甲斐があったというものだ。
到着した俺たちは、うどんを食べ歩いた。どこの店によって違う独特の歯ごたえと出汁は、実に最高だった。
帰りは弟に運転させたら、今度は橋が、夜景が綺麗だと言って、一人盛り上がっていた。危ないから前を見ろ、と何度も注意したのだが。
少し落ち着いた弟の運転に安心し、俺は窓に張り付いて夜の本州を眺めていた。
4/13/2025, 9:48:34 AM