ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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ジャングルジム

秋の公園の静かなジャングルジムで、ぼくは待っている。おかあさんが「もうごはんよ!」と呼びに来るのを。こどもたちがこの公園で遊ぶのは主に昼間で、それもたいていはようちえんに行くか行かないかの小さなこどもとその母親ばかりで、夕ぐれまで一人で遊んでるようなこどもはいない。ぼくももうわかってる。おかあさんはきっとぼくを呼びに来ない。たとえ呼びに来たとしても、おかあさんはぼくに気づかない。ぼくのとうめいなからだはジャングルジムの中をたよりなくさまよう。楽しかったジャングルジムはいまはもうぼくを閉じこめるろうやのよう。ぼくはいったいいつ生きているからだをなくしたのか、もうたぶん何十年も前のことだから思い出すことができない。ずっとさびしかったことは思い出せる。そしてきれぎれな思い出、「小学五年男児、誤ってジャングルジムから転落し死亡。ジャングルジムは取り壊し決定」という新聞記事。ぼくは、その新聞記事をこのジャングルジムから見下ろして読んだ。そうだ、ぼくは死んだんだ。ジャングルジムももうない。公園のはしっこで彼岸花が赤い。

9/23/2024, 11:10:31 AM